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2010年04月26日

『桜重ね』(by.比嘉淳子)

『桜重ね』(by.比嘉淳子)
 桜前線のニュースを聞くと、私は、京都に「会いにいく桜」がいる。
「見に行く」なんて表すには、私はちっぽけすぎておこがましくて言えない。
古桜と逢瀬を重ねるたびに、桜は幹の美しさが格別だと気づいた。
その幹を見て思う。
ゴツゴツとした肌にウロをなし、葉のない時期には岩のようになる、その齢がすべてのことを見透かしているようで、畏敬を超え、恐れを感じずにいられない。春になり、黒い異形の固まりから吹き出るように咲く清楚な花を見ていると、そこかしこから、平安貴族の行き交う足音すら聞こえてくるような錯覚に陥る。
ソメイヨシノ
この古桜は、千歳の坂を越える中、どれだけの人々の慶びや嘆きの歌を聞いてきたのだろうか。
大自然の中で、人間の100年足らずの営みなんて、まばたきみたいなものだろう。
自らの町を誇り、大事にする土地には、歴史とともに歩んで育んできた文化や習わし、自然がある。
里山の木々の毅然とした姿は、古来から人々や村を守ってきた自負すらあるようだ。

かつて、沖縄にも、神代から誇れる古木が至る所にあったはず。
その中には、桜の木もあったのだろうか。

寒緋桜沖縄で咲く桜は一般的に「寒緋桜」である。
ソメイヨシノと違い、燃え立つような緋色の桜である。
ソメイヨシノの桜前線は北上するが、寒緋桜は南下して咲く。
花吹雪が舞う事もない。

そして、一番の違いは、寒さが緩みはじめたら咲くソメイヨシノと異なり、一月のムーチービーサのもっとも寒い時期に見頃を迎えるカラフルな沖縄の桜。
沖縄桜祭りによく耳にする「この色ナニ?これじゃ、桃じゃーん」とは、「桜音痴」も甚だしい。寒緋桜も桜なのである。胸を張って「桜」なのである。ちなみに、京都には薄緑の花を咲かせる「鬱金桜」もある。前出の彼らは、鬱金桜に「これじゃ、葉っぱじゃーん」と、いうのだろうか。

鬱金桜ソメイヨシノは、江戸時代、東京の染井村の植木職人が交配を重ね、接ぎ木で増やした、いわば「クローン」だ。
その育てやすさから全国に広がり、今では春になれば、一斉にソメイヨシノが咲く。
そんなソメイヨシノは、残念ながら沖縄では花をつけてくれない。がんばって2、3輪の花をつけても後は押し黙ってしまう。
植物は、その土地の特性を素直に受けるものだ。
簡単に言えば、ヨソのウチにきて、自分ちのやり方をごり押ししないのは、ソメイヨシノさえわきまえている礼節だ。

ちょっと前、自然界がまばたきした瞬間、沖縄の森(ムイ)は、灰燼に帰した。
見渡す地上は、焼け野原となったが、地下奥深く伸びた根は、悠久の刻みを止めていなかった。ありがたくも、古木はその鼓動とともに芽を吹き、現在の森を形成し、海に清らかな水を注いでいる。

くれぐれも、沖縄の桜は「寒緋桜」である。「悲観桜」ではない。
「桜咲く」はめでたい熟語になった。
どうか、沖縄の緋色い想いが、桜前線とともに世界中を染め上げていってほしい。

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『桜重ね』(by.比嘉淳子)
『桜重ね』(by.比嘉淳子)プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。



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