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2009年11月02日

アメリカで描かれた小さな「琉球・沖縄」の話

アメリカで描かれた小さな「琉球・沖縄」の話
 読書が趣味であると意識しだしたのは、僕の場合(多分同世代ならだいたい)、推理小説を読むようになってからだ。小学校三年くらいまでは、子ども向けに物語をわかりやすくしたポプラ社あたりのホームズやルパンものにはまり、六年生ころには、角川や早川あたりの文庫の、本格的な推理小説を手に取るようになる。僕が特にはまったのが、エラリー・クイーンである。作者名も、出てくる探偵の名前も一緒の、本格派謎解きのアメリカの推理小説である。世界各国の名前がタイトルについている「国名シリーズ」というのが有名だ。今や推理小説の古典とされているかもしれない。

アメリカで描かれた小さな「琉球・沖縄」の話 先日、古本市に参加することになったので、いろいろ蔵書(というとカッコイイ)を整理していたら、その当時熱中していたエラリー・クイーンのぼろぼろの文庫たちが出てきた。懐かしさのあまりつい読み始めてしまったのである。そのなかの角川文庫の『日本庭園殺人事件』というのを読んでいたら、登場人物のひとりに琉球出身の女中が登場してきた。あらびっくり、すっかり忘れていた。作品は1937年にアメリカで発表されている。キヌメの登場シーンはこんな感じ。ちなみに舞台はニューヨーク。女主人が、キヌメを紹介する。

〈「日本人のように見えるが、ありゃ違うでしょう」と、茶亭の中のひとりの客が「日本人より小柄じゃないか」……中略……「……あのひとは、純粋の日本生まれではありません。琉球生まれですのよ。あの列島は、ご存じのように、東支那海のはしにあって、台湾−フォモサと申しますわ−と、日本本土の間にあります」〉
〈「あの民族については、人類学者のあいだで、かなり問題になっていますわ。琉球人にはアイヌの血が混ざっていると言われていますのよ。−それで、日本人より毛深くて、鼻の型がよくて、頬骨も低いのでしようね。それに、世界で一番、やさしい人たちです。」〉

 いやー、戦前のアメリカの推理小説でこんな風に琉球が紹介されているとは、なかなかおもしろい。さらにこう続く。やさしいと言ってもどうやさしいのかと、主人公エラリー・クイーンが尋ねると、

〈……めったに見せない微笑を浮かべて「琉球では、もう三百年ものあいだ、殺人武器などは使われていないようですわ」/「じゃ、僕は琉球大賛成ですよ」と、背の高い青年(※エラリー・クイーン)はとんきょうな声で「人殺しのない楽園とは、こりゃ信じられないことですよ」/「たしかに、日本人のタイプとは少し違うようですな」と、カーレン(※女主人)の出版元の主人が口をはさんだ。」〉

 この小説が発表されて八年後には、アメリカはその島を占領することになるのである。

アメリカで描かれた小さな「琉球・沖縄」の話 文庫といえば、最近読んだ『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(ポール・オースター編 新潮文庫)にも、沖縄のことが出てくる。この本は、アメリカの作家であるオースターが全米にネットされているラジオ番組とともに企画したもの。普通の、一般的なアメリカ人のリスナーから、彼らの人生に起こった本当の話を書いてもらい、送られた物語の中から、オースターが厳選したものを朗読するという番組を書籍化したというわけ。ラジオのリスナーから送られてきた便りを本にする、というのは、よくある企画ではあるが、これは別格的に面白かった。切なくて、奇妙で、奇跡的で、おかしくて、悲しい、本当のアメリカの物語がそこにはあった。沖縄の物語は「縞の万年筆」というタイトルで、沖縄戦直後の沖縄に赴任した軍人ロバート・M・ロックが書いた一篇。基地内で奇妙な盗難事件が起きていた、という。

〈妙なことに泥棒は、菓子だの何だのといったどうでもいい物しか盗んでいかなかった。あるとき、床や木のテーブルの上に裸足の足跡がついて、乾いた泥がこびりついていた。すごく小さな、子どもの足とおぼしき跡だった。みなし児のグループが群れをなして島中をうろつき、しっかり固定されていない物はなんであれ手当たり次第盗んで生き延びているという話はみんな聞いていた〉

 基地の中から垣間見える戦後沖縄の風景がそこにはあった。物語は、愛用していたウォーターマンの万年筆がなくなったことから、意外な展開を見せる。あれから五〇年たっても、いまだ忘れられない、謝罪の気持ちとは……。3頁ほどの話なのだが、こんな風に小さな小さな物語がたくさんあるのだろうなと思う。

 こんな風に〈外から眼〉から描かれた沖縄・琉球はいろいろあるのだけど、県産本としては、『小説の中の沖縄 本土誌で描かれた「沖縄」をめぐる物語』というのが、今年出た(仲程昌徳著 沖縄タイムス社)。1945年から72年の復帰の年まで、本土雑誌で発表された沖縄をテーマとした小説を紹介していく、という文学論考。沖縄県産本を紹介するコラムなので、この本のマクラとして、『日本庭園殺人事件』「縞の万年筆」のことを持ち出したのだが、少々話が長くなってしまったなぁ……。しかたない、この本はじっくりと来月紹介することにしよう。今回は番外編、予告編としましょうね。(来月号へつづく)

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アメリカで描かれた小さな「琉球・沖縄」の話
プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/


タグ :沖縄琉球

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Posted by 万民の天☆金正子万民の天☆金正子 at 2009年11月07日 10:33
 
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