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2010年09月27日

『木、気、奇、器』

木、気、奇、器

*人と植物との関わり

読者諸氏のなかに、植物が活力増強の一助になりえる、という方はどのくらいおられるだろうか?
例えば、この木をみるだけで一服の清涼剤になるのよね〜、とか、大木に抱きつくだけで心がすっきりするのよ、私の周囲だけでも木が心の活力剤になっている人は多い。
植物は、私たちがこの世に現れる前から私たちの出現を予見していたかのように酸素を放出し準備を整え、受容し、共存してきた。
さらに、漢方や生薬など植物の特性が、薬効として私たちの体の変調を改善してくれることもある。
植物もさながら鉱物も薬になる事を考えれば、生物の体は地球上の物質と連携するようプログラムされているように思えてならない。
もの言わぬこれらと、である。


*活力増強木はありますか?

がじゅまる私にとって活力増強木は「がじゅまる」である。
沖縄を代表する「がじゅまる」は、常緑高木の広葉樹で、幹や枝枝から木根を垂らし杖のようにしたり、他の植物に被い被さり絞め殺したりする。しかも、放置すれば高さ20m以上にもなるというから、都市部ではまま迷惑がられている木である。

そんな「がじゅまる」であるが、老木になれば、無数の支柱根が枝を安定させ、木上に悠々快適な空間を作り出し、子供達にとっては秘密基地を作るよい物件になったものだ。
私の「がじゅまるハウス」は、近所の亀甲墓の庭に植えられていた物件で、マズイ事をした後の避難場所、兼高倉式秘宝館であった。

ある日、学校から帰るといきなり母から大目玉を食らった。
兄の貯金箱のお金がなくなっているという、濡れ衣である。
日頃より、いたずらや意地悪三昧な私が真っ先に犯人にされたわけで、今でも胸を張っていえるが、決して私ではない。おやつは獲っても金目のものは盗らないのが私流である。

それからというもの、ご飯と就寝以外は「がじゅまるハウス」で過ごし、「母ちゃん、兄ちゃん、バカ」と悪口雑言をノートにしたため、涙しながら「がじゅまるハウス」で昼寝をし、探しにきた祖母に促されて帰宅するという日を送っていた。
「がじゅまるハウス」の裏には一人の老婆が住んでいた。つまり、隣人である。
その老婆はなぜか一人暮らしで、祖母からは近寄ってはならないと強くいわれていたので、「がじゅまるハウス」から目が合ってもわざとそらしていた。

「がじゅまるハウス」ストライキからどのくらい経った頃か、「きじむなーは出たねー?」と、老婆が聞いてきた。
無視する私になおも、
「この木にはきじむなーがいるよー。毎晩毎晩、このおばーのところに来ては、アンタが邪魔だっていっているよー。早く出て行かないと目ん玉を取られるよー」と、軒下でいう…  続きを読む



2010年08月23日

沖縄は海も野原も薬草だらけ

沖縄は海も野原も薬草だらけ

今月は、薬草の話。ナーチョーラー=別名海人草(かいにんそう)と、それにまつわるエピソードです。

*良薬は口に苦いけど、心に染み渡ります

我が家の祖母は、医者泣かせな魔術師だった。朝、台所から異臭がすれば、大体は、祖母が薬草を煎じていた。子供の目からすると、祖母が緑色の湯気の立つ鍋の前でこちらに向かってほくそ笑んでいるようで、ちょっと不気味に見えたものだ。

毒蜘蛛の足のような「なーちょーらー」「ナーチョーラー汁、でぃきとぅぐとぅ、よんなーよんなー かみよー」
(ナーチョーラー汁が出来上がっているので、ゆっくりゆっくり食べなさいよ)

この台詞をきくと、私たち兄弟は、とたんにいい子になるか暴力で抵抗するしかなかった。私はもっぱら後者の方で、何度ナーチョーラー暴力を振るったかしらない。結局、祖母に横抱えにされ、口の中にナーチョーラー汁を注ぎ込まれるはめに至る。

涙と鼻水とナーチョーラーの味で、口の中は異次元の世界。あのまずさは、類を見ないまずさである。兄と妹の「がんばれ、がんばれ!」の声が遠くの方から聞こえてくる、そんな味。今の時代ならナーチョーラー虐待で、私は世間の同情をかっていただろう。

*ナーチョーラーとは

ナーチョーラーとは、別名海人草(かいにんそう)。紅藻のマクリである。昔から、虫下しや赤ちゃんの胎毒下しに使われていたそうだ。

腹の虫フィギュア(こんなかわいい虫なら許せるかも?)あの独特な苦味と風味がギョウ虫や回虫に効果があると言われているが、不思議な事にこの世のものと思えない臭みも苦みも喉元を過ぎれば、胃部に清涼感がでたものだ。
祖母は、私の落ち着きのなさがギョウ虫によるものと判断したのだろう。定期的に強制飲用された苦い思い出の薬草である。

でも、おかげさまで、砂場の砂を食べても、拾い食いをしても、手を洗わなくても、一度もギョウ虫が私の腸に寄生する事はなかった。
祖母の愛情が身にしみる思い出でもある。  続きを読む



2010年07月26日

『アンチエイジングは食にアリ』

アンチエイジングは食にアリ

●それは、美容の怖い話からはじまった…

この年になってくると(アラフィフだよ~)、美容について「あきらめ派」と「あがき派」で派閥が生まれてくるようだ。

ワタクシは、ビヨウについては無頓着なので、前者の「あきらめ派」に属しているらしい。
というのも、仕事仲間から家族、親戚に至るまでローションすら所有しない自然派に囲まれているせいか、ちぶぐわぁに残った泡盛を「モッタイナイ」といいつつ顔につけて就寝することが常であった。

ところがである。驚天動地な事が起ったのだ。仕事で70代のご婦人と御一緒する機会があった。
その女性は、秋だと言うのに長袖に帽子姿で現れ、スッピンに半袖のワタクシを見て、
「アンタ、ティダウトゥルーじゃないね(貴女は、太陽を怖がらないね)。若いと思っていたら、すぐに私よりオバーになるよ。ティダは、ウトルサンドー(太陽は怖いよー)。それによ、顔は手入れをしたら恩返ししてくれるさー」と。確かに、このご婦人は70代とは思えぬ、若い容姿をしている。

聞けば、若い頃から太陽光線をくぐり抜け、美白にこだわった生活をしていたと言う。その結果、シミ一つない美しい肌を維持できていると言うのだ。
その晩、洗面所の鏡には、いつの間にか(前からだろうけど)シミだらけのしわしわになった私の顔が映っていた。

●体改善計画

ゴーヤー顔どころか体のさびにも気づいたワタクシは、さっそく、知り合いの医院に駆け込み、実年齢と体の年齢の差を比較してもらったところ、15才も老けている結果がでた。恐ろしい話である。で、エステやらなんやらを紹介してもらおうと、その医師に泣きを入れたところ、「食事ですよ」と、サラリとかわされた。

“アンチエイジングが大切だ”という。つまり、健康的に加齢する事が大事で、切ったり貼ったりするよりも、正しい生活スタイルに戻し、バランスの良い食事が身体を変える近道だそうだ。  続きを読む



2010年06月28日

松竹梅の「竹」のエピソード話『猛々しい竹』

松竹梅の「竹」のエピソード話『猛々しい竹』
先日、懐かしい顔が集まった会合があった。
「ひさしぶりー」の声の後は、「この前、Aさんのウチに遊びにいったら、すっごい豪邸でサー。庭から玄関まで徒歩5分は掛かるわー。11も部屋があるんだって!」
数人のおばさん(同級生だが)がたむろって噂話をしていた。

Aさんとは、竹馬の友。まさしく、竹馬で遊び、がじゅまるの木の上に秘密基地を作って遊んだ友人だ。セレブになったと風の噂で聞いていたが、こういう会合にはいっさい顔を出さないから、今では幻の友人である。

一般ピーポーなワタクシは、考えた。
“毎朝5分も歩いて新聞を取りに行くなんて、雨の日なんてなおさら嫌になるじゃん。11も部屋があると掃除が大変だし、我が家なんてトイレに玄関も合わせて5LDKだけど1日掛かりよー”と。
「アンタ、あのねー。ちゃんとメイドさんがいるのよ」。
世の中、いろんな生活形態があるようだ。

そういえば、Aさんのおばあさんの家には、大きな竹林があった。
サワサワと葉擦れの音が、外界と結界を張っているような古い家だった。
と、書けば、かっこ良く聞こえるけど、ヤンバルのさらに奥の瓦葺きの古民家だ。そこんちのタケノコは渋くて食べられないから、家族中からブーイングの嵐だったと聞いている。そこで、おばあさんは、梅と松の木を植えたそうだ。
竹林
“松竹梅”が揃ったわけである。
玉の輿の主因は、そこだ。と、娘を持つ友人らがにわかに色めき立った。
たぶん、彼女らは娘の輝かしい将来のために松竹梅を集め始めるのだろう。

偶然か、我が家の庭にも松竹梅の三拍子で揃っている。
竹を植える時に、舅が「ダキ イーチョーネー、ヤーワインドー」(竹を植えると家を割るよ)と、大反対した。

我が家の竹しかし、竹の涼しげな姿に憧れていた当時、沖縄の竹というタグのついた竹の苗を買って植えた。
竹の強靭な根がアスファルトさえ割る事は知っていたので、大きな瓶に小さな苗を置いたのだが、2年もしないうちに巨大な竹の鉢植えになってしまい、正直、困った。

「だから言っただろう。竹が魔除けと言われるのは、1日に50cm伸びるほど猛々しく育つからだよ」と、焼き芋をゆし豆腐で胃に落としながら舅は涼しく言い放った。

かつて、竹は草か木かという論争があったそうだ。竹には、木が固くなる物質のリグニンの前駆物質があるそうだ。
タケノコをゆでた時に出るあの白い粉がそうらしい。なので、木かと言えば、木ならば毎年開花するが、竹は滅多に花を咲かせない。では、草かと言えば、花をつけ種をつけて枯死するでもない。
そういう神秘的なところから、かぐや姫や七夕の話が生まれて来たのだろう。
こうありたい理想的な竹の楽しみ方
かくいうワタクシも、娘を持つ母親である。娘に玉の輿の主因が揃っている吉事を伝えた。
「七夕の竹ぇ〜? 七夕って、墓掃除じゃなかったっけ?」
我が娘は、タナボタ的な金満生活には興味がないようである。

比嘉淳子の『ryuQ100花』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73394.html


プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。
  


2010年05月31日

「テーマパークの裏楽しみ方」(by.比嘉淳子)

テーマパークの裏楽しみ方/比嘉淳子
我が家はこぞってテーマパーク好きだ。
千葉にあるのに東京と名の付くあのテーマパークは、年に数回訪れる。大阪にある米国映画村は今年も行った。
特に、ネズミキャラパークに隣接するホテルから見える風景は、夢を忘れたおばさんのアドレナリンを一気に分泌してくれ、普段の日々がうそのようである。

そして、普段なら寝ている早朝に起きだして、朝日に照らされながらパーク内を清掃するスタッフに感動し、早速、家に帰ったら早朝庭掃除する決意を表明する。が、これは、すぐに内省に代わった。
とにかく、入場するや否や、ゲートの開いた出走馬のように私の家族は、園内に流れ込むのだ。

トピアリー絶叫系アトラクションをこよなく愛する子供達は、嫌がる父親を引きずるようにしてアトラクションのファストチケットゲットに走り出す。
「マブヤーを落とさんでよー」と、見送った後、私は家族とは反対の場所に走り出し、園内の植物と言う植物のチェックを始める。

そう、テーマパークのもう一つの楽しみ方は、植栽なのだ!
「この手があったんか!」
「信じられへん!」
「みとめられへん!」
「さすがやわー」
「沖縄でもまねできるやないのー」
と、なぜか関西弁で感心したり、驚いたり、葉裏を見たり、地面に顔をつけたり。
挙動不審なおばさんは、テーマパークでは学ぶ事が多くて、飽きないのだ。

オレンジ
何気にヨーロッパ風なトピアリーを見れば、カイズカイブキであったり、チャーギであったりするし、デコレーション風な柑橘の植栽も、本物のオレンジだった。
「やっぱ、人を感動させるには、偽物じゃだめなのよねー。
ごまかしじゃ、心って動かないんだね。」
…アドレナリンのせいか、普段、考えないような事を考えている。
こんな事は柄にもないので、他に目を移した。

芝生
若いスタッフが、ピンセットを片手に芝生の上でしゃがみ込んでいる。
よく見れば、小さな雑草を丁寧にピンセットで抜いているのだ。
「信じられない。除草剤ではなく、手作業なのね。」
多数の来園者への配慮なのだろか、除草剤を使っている気配がない。

多肉植物老若男女の夢の国は、こうしたたくさんの人の努力で成り立っている。
観光で入客数を伸ばすには、箱ものではなく、ごまかしのないウトィムチが大切なのだと悟ったのでありました。
…ああ、まだアドレナリンが出ているようだ。
しかし、この多肉植物のネズミキャラは、素晴らしすぎるぞっ!


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2010年05月24日

「ハーリー、香りの記憶」

ハーリー、香りの記憶
ハーリー風光る5月、爬龍船競漕「ハーリー」を湧かせる男達のドラマが始まる。
一糸乱れず櫂を漕ぐ姿は、エイサーに匹敵する程、普段はそうでもない(?)沖縄の男性をかっこ良く見せる2大イベントのひとつである。リーメン(ハーリーメンズ)やエイメン(エイサーメンズ)らも、そこいらへんを意識している、と思わんばかりの活躍ぶりである。

だがだが、このハーリー、少子化問題解決を狙った婚活行事ではない。そんなことは当たり前だが、時の国王も絶賛した由緒正しき行事なのである。
沖縄行事に詳しいお年寄りによれば、そもそもハーリー船は、海神である龍の化身であり、ハーリー船を浮かべる事が五穀豊穣と航海安全を祈願するものだという。

那覇ハーリー昔は、那覇港を出発したハーリー船は、海の彼方にある理想郷ニライカナイからたくさんの徳をもらい、漫湖に戻ってきたそうだ。
そして、「見た事はないが」とそのお年寄りは前置きした後、漫湖に停泊したハーリー船から龍は降り、奥の山から豊見城にかけて体を伸ばし、人々の営みを見ながら一年かけてニライカナイ産の徳を小出しにしていたと言う。

どんだけ胴長よ!とツッコンではいけません、神様ですから。ということは、奥の山から豊見城の御嶽にはニライカナイ埋蔵金がたんまりということか?
そんな愚問に、老人は、龍の徳と言うものは、肥えた土と清らかな水だと即答した。

確かにジャーガル土は肥えている。
「かがんじでーくにー」をはじめ、様々な葉野菜もあの辺りが有名どころだ。なにせ、香りが違うのだ。

あまがし子供の頃、ハーリーの季節になると我が家では「あまがし」を食べた。
緑豆を黒糖で味付けした沖縄風ぜんざいは、菖蒲の茎をスプーン代わりにして食べたものだ。
長じて知った事だが、緑豆は体の内熱を冷まし、菖蒲の香りは食欲増進、菖蒲エキスは食中毒予防になるという。
その菖蒲の香りは、特に豊見城産が芳醇であって、祖母はその地域以外の菖蒲を偽物扱いした程だった。

私にとって、ハーリーの季節の香りである。ただし、この菖蒲は、紫の花を咲かせるアヤメではなく、サトイモ科の芋虫のような地味な花を咲かせる菖蒲のことである。別名アヤメグサなので花菖蒲のアヤメに名前を乗っ取られた控えめな植物である。
水辺を好み、田んぼの脇に植えられている。
中国では、その高貴な香りから邪気を払う無病息災の植物として、5月5日は酒につけて呑む習慣があったそうだ。

軒先に菖蒲を垂らすその習慣が、沖縄や日本に伝わり、菖蒲湯や菖蒲スプーンに変化したのだろう。
しきたりを重んじる京都では、軒先に菖蒲を垂らす粋な構いを見た。
梅雨払いのハーリーが過ぎ、いよいよ風の薫る季節となった。菖蒲の香りに代わって、次に漂う香りはどんな香りだろうか。きな臭い香りだけは、まっぴらごめんだけどね。

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2010年04月26日

『桜重ね』(by.比嘉淳子)

『桜重ね』(by.比嘉淳子)
 桜前線のニュースを聞くと、私は、京都に「会いにいく桜」がいる。
「見に行く」なんて表すには、私はちっぽけすぎておこがましくて言えない。
古桜と逢瀬を重ねるたびに、桜は幹の美しさが格別だと気づいた。
その幹を見て思う。
ゴツゴツとした肌にウロをなし、葉のない時期には岩のようになる、その齢がすべてのことを見透かしているようで、畏敬を超え、恐れを感じずにいられない。春になり、黒い異形の固まりから吹き出るように咲く清楚な花を見ていると、そこかしこから、平安貴族の行き交う足音すら聞こえてくるような錯覚に陥る。
ソメイヨシノ
この古桜は、千歳の坂を越える中、どれだけの人々の慶びや嘆きの歌を聞いてきたのだろうか。
大自然の中で、人間の100年足らずの営みなんて、まばたきみたいなものだろう。
自らの町を誇り、大事にする土地には、歴史とともに歩んで育んできた文化や習わし、自然がある。
里山の木々の毅然とした姿は、古来から人々や村を守ってきた自負すらあるようだ。

かつて、沖縄にも、神代から誇れる古木が至る所にあったはず。
その中には、桜の木もあったのだろうか。

寒緋桜沖縄で咲く桜は一般的に「寒緋桜」である。
ソメイヨシノと違い、燃え立つような緋色の桜である。
ソメイヨシノの桜前線は北上するが、寒緋桜は南下して咲く。
花吹雪が舞う事もない。

そして、一番の違いは、寒さが緩みはじめたら咲くソメイヨシノと異なり、一月のムーチービーサのもっとも寒い時期に見頃を迎えるカラフルな沖縄の桜。
沖縄桜祭りによく耳にする「この色ナニ?これじゃ、桃じゃーん」とは、「桜音痴」も甚だしい。寒緋桜も桜なのである。胸を張って「桜」なのである。ちなみに、京都には薄緑の花を咲かせる「鬱金桜」もある。前出の彼らは、鬱金桜に「これじゃ、葉っぱじゃーん」と、いうのだろうか。

鬱金桜ソメイヨシノは、江戸時代、東京の染井村の植木職人が交配を重ね、接ぎ木で増やした、いわば「クローン」だ。
その育てやすさから全国に広がり、今では春になれば、一斉にソメイヨシノが咲く。
そんなソメイヨシノは、残念ながら沖縄では花をつけてくれない。がんばって2、3輪の花をつけても後は押し黙ってしまう。
植物は、その土地の特性を素直に受けるものだ。
簡単に言えば、ヨソのウチにきて、自分ちのやり方をごり押ししないのは、ソメイヨシノさえわきまえている礼節だ。

ちょっと前、自然界がまばたきした瞬間、沖縄の森(ムイ)は、灰燼に帰した。
見渡す地上は、焼け野原となったが、地下奥深く伸びた根は、悠久の刻みを止めていなかった。ありがたくも、古木はその鼓動とともに芽を吹き、現在の森を形成し、海に清らかな水を注いでいる。

くれぐれも、沖縄の桜は「寒緋桜」である。「悲観桜」ではない。
「桜咲く」はめでたい熟語になった。
どうか、沖縄の緋色い想いが、桜前線とともに世界中を染め上げていってほしい。

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2010年03月29日

勾玉のようなありがたい花


ヒスイカズラ沖縄の空や海のようなヒスイカズラの「青い花」。背筋が伸びるような、言葉を発してはいけないような神秘さを持つ、なんだか、御利益のありそうな青い花である。

ヒスイカズラは、学名ストロンギロドン・マクロポトリス。ジェイドバインとも呼ぶ。フィリピンのルソン島が原産地だそうだ。マメ科のつる植物で、宝石のヒスイから命名され、現地では絶滅が危惧されているという。

我が家のそれは、5年前に「この花は、沖縄では難しいよ〜。この位の暑さでは咲かないさぁ。プロでも難しいっていうよ〜。温室が必要さぁ。」と、念を押されつつ入手したもの。

2Fまで伸びた小市民に温室など無理な話で、でも、捨てるのも忍びなく庭の片隅に放置しておいた。すると、温室育ちは軟弱になるということを物語るように、その強靭な根は、いつの間にか鉢を割り、雨樋を支柱にどんどんテリトリーを伸ばし、とうとう2階に到着した辺りで花を咲かせた。

「なんも難しくないじゃん。」率直な感想だった。
多分、すぐに迫るアスファルトや近隣建物のコンクリートからの輻射熱が熱帯の故郷を想わせたのだろう。
アスファルト地獄の意外な功名かもしれない。

ヒスイの勾玉よくみると、この花色、青というより夜明け前の蒼に近い。花軸や花柄の紫のグラディーションは、暗闇を追いやるように昇る光に似ている。

熱帯の花は、香りの強い花を咲かせる事が多い。鼻を近づけてみた。特に香りは感じられない。古い葉軸から伸びだした花軸は、うなだれるように、恥じらうようにたくさんの勾玉のような蕾みをたわわにつけている。

ヒスイも勾玉も幸せを運ぶアイテムだそうだ。巣立ちの春に咲くこの花のように、羽ばたき始めた若者達に幸せがたわわに実るように願ってやまない。

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2010年03月22日

『春のハル(畑)』(*ハルは沖縄の方言で「畑」)

春のハル(畑)
「春が来た!」っていうと、「沖縄はいつでも暖かいでしょ」と突っ込まれそうだが、いやいや、これが、沖縄の冬もなかなか寒いのである。しかも、今冬は、去年のユンジチのせいで寒い日が長いのよ〜と、餅屋のおばさんが説明してくれた。

ユンジチとは、普段私達が利用している新暦の365日と、お月様の満ち欠けサイクルを中心に考えた旧暦の354日とのズレを調整するためにもうけられたシステム。もう少し説明をつけ加えると、32〜33ヶ月経つと、このズレは約1ヶ月になり、このままズレを放置していると、季節と暦が奇妙な関係になるので、同じ月を2回重ね帳尻合わせするカラクリをご先祖様達が考案したようだ。持つべきは、賢いご先祖様ですなー。見当識の乏しい私のような先人ばかりだったら、この世はどんな感じになっただろうか。

新芽それはさてより、ユンジチのせいかどうか、今年のハル(畑)はしつこい北風とぶり返す夏日に悩まされた。春の到来は三寒四温と言われるが、三寒四暑のせいで春待ち草の代表、梅の咲きがまばらである。薔薇にいたっては、柔らかい新芽が強い北風に水分を奪われカスカスになってしまった。翡翠かずらは突然の夏日に花芽の先っぽを黒く変色させうなだれている。

そんな嘆きのハル(畑)だが、にぎやかな生き物の訪問に救われたりもする。
柑橘類の香りに誘われたメジロやシロガシラは、リズムよくさえずりながら枝を行き来している。
ミツバチもあの名作のように足いっぱいに花粉玉を引っ付けて忙しそうに飛び回っている。

春だな〜。おだやかな時間が心地いいな〜。

のほほーんとしている視界に、柑橘類の葉裏に尻をくっつけている虫の姿が飛び込んできた…。
「ウリミバエ!?」
タブンそうだ。あのウリミバエだ。ガーデナーにとっては、親の敵の次くらいに憎い虫だ。

ニガウリ+柑橘類
ああ、神様は、なんで、ごきぶりやねずみや蚊やウリミバエを造りたもうたのか!
ウリミバエは、ニガウリ、すいか、柑橘類、パパイヤ、マンゴーなどの果実に産卵し、人間が実を食べようと中身を開くと、ウリミバエのウジがうじゃうじゃ出てくるという世にも恐ろしい演出をする虫である。かつて、沖縄の農業を危機的状況にまで陥れた小さなテロ軍団だ。その上、農薬散布での駆除は困難だという。

そこで、沖縄県は放射線を照射した不妊ウリミバエを放ち、次世代を作らなくする作戦に出た。この作戦は功を奏したようで、1993年10月、ウリミバエの根絶に達成したそうだ。

では、我が家で飛び回っているこのウリミバエは、不妊虫ということか。
にしても、気持ちのいいものではない。
ということで、農業用の黄色粘着トラップを仕掛けることにした。説明書には、虫は黄色に寄ってくるみたいな事を書いてある。

トラップ一網打尽にしようと、20枚セット全てのトラップを仕掛けた。さながら、幸せの黄色い旗がたなびいているようだ。
害虫どもの阿鼻叫喚を想像しながら部屋に向かい踵を返すないなや、春風になびいたトラップが私の頭に張り付いた。ゲゲッ!既に数匹のハエがくっついているトラップが女の命の髪の毛を掴んで離さない。足下をみれば、愛犬もトラップにかかりもがいている。
愛犬を助けるためにしゃがんだら、あがががっ、髪の毛がバサッと抜けた。助けたつもりの愛犬の額も四角くハゲている。
ああ、なんてこった。

こうして、我が家の庭の黄色のトラップには、虫のみならず人の毛や犬の毛が引っ付いて、ゆらゆら春風にたなびいている。
春のハル(畑)は、人や犬や虫でにぎやか&デンジャラスなハルだった。

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2010年02月22日

「花咲か爺さん」

花咲か爺さん
師匠(舅89才)は、他人様の家や庭チェックを趣味としている(決して、のぞきではないので誤解のないように)。
他人の家の壁をガンガン叩き、材料の善し悪しから石の顔まで細々に、である。

そうそう、デザイナーが設計したという家にお呼ばれしたときも、新築間もない壁をガンガン叩き「へっ」と言ったきりだった。その上、庭土をつまんだときなんかは、眉間にシワを寄せ、「偽物」と捨てるように言い放った。土に偽物があるものか?と、思いつつ師匠の話に耳を傾けた。

昔ながらの家屋「沖縄の土は、地域によって顔が違う。
山があるか、海が近いか、風は吹くか、気温はどうかで、育つ植物も違う。
この土地でこの客土をしては、水はけが悪く、家との相性が悪いのでカビが発生しやすくシロアリやにおいに悩まされるはずだ」という。

自慢の家をぼろくそに言われた主は、師匠の妻(私の姑)に後ろでクレームをつけていたが、そのクレーム、後で後悔するはめになった。
築後1年で、ぜんそくとシロアリに悲鳴を上げたのだ。

デザイナーズ住宅の主は、師匠に頭を下げ指導を仰ぎ、大金を掛けて家を大改造したのである。
そして、リフォーム後、「なんということでしょう」と驚くほど風通しが良くなり、クーラーを入れるのを忘れるくらい。しかもぜんそくの薬もいらなくなったと言うのである。
恐るべし年の功。
「ワッターじいさんも亀、ばあさんもカメ、二人ともカメと言う名前だから、亀の子さぁ〜」と、親父ギャグも天下一品である。

立派な琉球松師匠は、時折、弟子の私を連れて古民家訪問をする。
傍目で見れば、老人を散歩させる良い嫁ふうなぁなのだが、これは実習なのである。
しばらく弟子の私を放牧させた後、口頭試問が始まる。
「あの木のどちらが、八重山黒木か?」
(わかりません。どこ産って関係あるの?)
「どちらが琉球松か黒松か」
(さぁ…?)
「葉が長くて、幹が荒れて迫力あるのが琉球松だ。何を見ている!」
そこに助け舟がきた。

この家の長男が、黒木を植えた直後、全ての葉を落とし、今ではすっかり枯れ木のようになったと言うのだ。実物を見たら、想像を超えていた。枝振りはしっかりしているものの、葉一枚ないのである。
師匠は、枝をムンズと握り、上下に動かし、大きな幹に耳を当てた。
「大丈夫。生きている。植え替えのショックで葉を落として調整しているだけだから、毎日たっぷり水をやれば生き返るよ。水を節約しては、木は育てられないよ」自信満々である。

真似て耳を幹に当てたが、ひんやりしているだけで、これといった音は聞こえない。
すると、師匠がムギュウ!と力一杯に私の頭を木に押し当てたのだ。
あがががが。と、抵抗するも、
「骨で聞くんだよ。このひんやりは水が上がっている証拠だ」そうだ。
骨伝導かっと、ちょっと怒りを抑えつつ、古民家のおばさんのお言葉に甘えて、縁側でお茶をいただく事になった。プチわじわじーの後なので、寡黙に徹する私。

そのおばさんによると、この家は、側で猫とじゃれあっている師匠が60年前に作ったそうだ。
若かりし師匠は、材料の切り方まで、それはそれは口うるさく指導したそうで、かつての大工さんに心より同情する。

師匠は言った。
「この家がなぜ60年もシロアリやカビに食われないかわかるか?」
こういう事だそうだ。
建築材料は地元産が一番。土地の癖を知り尽くしているからだそうだ。
そして、自然を真似れば長持ちする。
例えば、外部に使う柱と家屋に使う柱の切り方は違う。
外柱は、土に生えている状態をそのままにした方がいい。多少の曲がりは、台風にしなって家を守ってくれる。
また、木を地際ギリギリで切る事で水と空気の両方に対応し、土中の微生物に抵抗力のある境目を底にする事で、シロアリの害を防ぐ事が出来るそうだ。

「お前の庭の八重山黒木。60年後に立派な床柱にしてやる!」
60年後って師匠、それはいくらなんでも。それとも、亀の子は万年ですかい。

比嘉淳子の『ryuQ100花』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73394.html


プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。
  


2010年01月25日

「自然の絶妙なバランス」(by.比嘉淳子)

「自然の絶妙なバランス」(by.比嘉淳子)
いよいよ2000年代も2ケタに突入した。
若かりし頃、21世紀ってもっと宇宙っぽい時代を期待していたのに、明けてみれば何の事も無くフツーのおばさんだったりしている。
年の夜は、紅白を見て、歯磨きしながら除夜の鐘の音で煩悩を打ち砕き、新年、ソッコウで煩悩を蓄えていくという。なんとも俗世にまみれた、多分、大昔から繰り返されてきたのだろう、だってニンゲンなんだもの的な年明けだ。

セーファ御嶽そんなワタクシも、40余年もお正月を迎えたお正月のプロ(皆さんもそうでありますが)。なにかしら、沖縄らしい年明けをと思い立ち、数年前の正月からセーファ(斎場)御嶽参りをしている。
といっても、特別何かを祈願するでもなく、ただただ去った年の感謝と健やかに新年を迎えられた事への感謝だけをして、夫婦でお茶して帰るといったドライブ気分な初詣なんだけど。

セーファ御嶽といえば、最近注目のパワースポット。なかには、天を仰ぎ、両手を広げている方々がいて、なかなか厳かな雰囲気だ。真似をして彼らの視線の方向に目をやっても、煩悩の固まりのワタクシには、晴天ひろがる沖縄の空しかキャッチできず、パワーがチャージされたかどうかも定かではなく、ただ彼らの邪魔をしないように静かに歩くといった良き通行人である。

では、なぜ、セーファにいくかというと、もちろん、沖縄の神々がおわせられる久高島に感謝を申し上げると言う事もさることながら、森林浴ですな。
セーファの森は、まことに持って魅力的な木々が揃っておいでになる。それにつきるのでありまする。

低いところを見れば、シダ植物からクワズイモ、徐々に目線をあげて、ソテツにシマグワ、琉球松、ホルトノキ、ハマイヌビワ、テリハボク、コバテイシ、クスノキ、アカギ…ああ、あの奥の植物帯も見てみたいと誘惑に駆られるも、ハブとの遭遇を思惟し、王道のみの植物で思いを巡らせている小心者なワタクシ。
かつては、なお鬱蒼としていたセーファの森。どんな花をどんな香りを楽しませてくれたのでありましょうか。
クワヅイモ、ソテツ
まっ、整地された聖地もなかなか楽しい場所で、木々に撫でられた風は音さえも新春の寿ぎを感じるのであります。
このように、聖なる森は、さっきまで福袋ゲット作戦を激論していたおばさんを、恭しい気持ちにさせてくれるようで。ふと、遊歩道に手すりのように横たわった倒木。

元を辿ってみれば…倒れた巨木を別の株立ちの木が支えている。倒木の幹は虫か病気で腐り、穴があいていて、その穴を小枝が覆うようにかぶさっている。おばさんの頭にこんなストーリーが駆けた。
「もうだめ。幹が腐って立っていられない。」バタン。
「何を言ってるんだ。一緒に酸素を放出させようと約束したじゃないか。」と、隣の木が自分の幹を呈して、はしっと受け止めた。

倒れた木周囲の木々が応援するように、小枝を穴のあいた幹にかけ、雨水を避けてくれた。倒れた木は、周囲の木々の応援のもと、太陽に向かって幹を伸ばしていく。腐った先端部分は、切り離して,新しいひこばえを明るい方へ向かってぐんぐん伸ばしていく。

木が倒される瞬間、周りの木々は共鳴するように葉を打ちうるわせると聞いた事がある。彼らは、植物の共同体なんだ。
なるほどと、おばさんは気づきましたね。弱肉強食の自然の中でも、弱いものを皆で支え、補っていくこと。過去は切り捨てて、新しい未来へと伸びていくこと。
森の中では、気づく事がいっぱいなのです。

三庫理の木の根息が上がってきたところで、三庫理(サングーイ)に到着した。
傍らの夫が「自然の絶妙なバランスだな」と、感心しているところ、ワタクシは、岩にこびりついて伸びる木の根に注目。
「ふふーん。石の上にも3年ってことか。ダイエットもこうでありたいものだ」と、感心しきり。
24年連れ添った夫婦でも、着眼点は異なる。違うもの同士が支え合うって事が大事なのかもしれないと、ちらりと思った寅年の幕開けでした。今年もゆたしくうにげーあぎやびら!来年は、銀婚式やさ。

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プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
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2009年12月28日

本当は教えたくない絶品B級グリーン

本当は教えたくない絶品B級グリーン
このような仕事をしていると(ガーデン関係の文章を書いている系の仕事)、「家に何か植えたいけれど、おススメの植物ってありますか?」てな質問を受ける事が多い。
う〜ん。これは、実に難しい質問である。
一戸建てか、集合住宅か。庭は猫の額派か、じいちゃんの額派か(広いって事ね)。日当りはいいか、否か。愛でるだけか、生活に利用するか、等々など。
その人の生活スタイルによって様々な答えを準備しなくてはならない。
それに植物だって生き物。ペットを飼うみたいに管理が出来るかも、由々しき問題だ。彼らは、かわいがればかわいがる程イキイキとしてくる素直な生き物だからである。

庭園まあ、ワタクシ個人では、ジンシャリ美しい松柏類の木が庭に欲しい。
石庭にぽつりとあるだけで、そこはもう宇宙といわれる「おススメA級グリーン」と、思ふ。
ただ、お値段も思考回路を停止させるほどの数字で、「円」という単位がなければ、商品番号だと思わんばかりの数字の並びようである。
もはや、光合成をする金塊といえるかもしれない。

ということで、ワタクシたち市井の人のために、
「淳ちゃんが勝手にセレクト。本当は教えたくない絶品B級グリーン」を今回ご紹介する。まちがえてもB級グリーンは、「お粗末な」という意味ではない。

黒木我が園芸の師匠「じいちゃん(舅なのだが)」は、ワタクシの庭の木々を見て一言。「雑木もたまにはいいもんだ」といった類いの木を私は「絶品B級グリーン」と呼んでいる。つまり、慎ましく生活をしているワタクシでもたやすく入手し管理できる木のこと。黒木もあれば、がじゅまるもある。梅は花も実も紅葉だってオツだし、柑橘類にいたっては、花の香りはセラピーに使われる程芳しい。
列挙するといとまが無いので、亜熱帯沖縄で元気に育ち、フリーメンテナンス、常緑だと葉が落ちないので掃除が楽チン、虫がつきにくい、以上にしぼってご紹介する。

「木」ならば、三線の材料でもある黒木。あまり知られていないが、黒木の花の香りはバニラと柑橘系の混じった香りがする。春になれば、めじろが好んで集まるようだ。
「生活に利用・料理編」ならば、サンニン「月桃」。料理の下敷きにすれば、殺菌効果や彩りにもなる。鉢植えで置けば、おしゃれな観葉植物ふうなぁ(※)にもなる。
(※ふうなぁ=ぐわぁしぃの類語。“〜っぽい”ってこと)

サンピン「生活に利用・エトセトラ編」ならば、「サンピン」。花の時期は、一枝を部屋に飾れば、ルームフレグランスになる。安いお茶に浮かべれば「手作り高級ジャスミンティふうなぁのお茶」に大変身。出されたお客さんは、きっと「コヤツは生活の達人かっ」と美しい勘違いをすることでしょう。

と、まぁ、こんな感じで、欲張ってあれもこれも、というよりは「まずは一鉢」から始めてもらいたい。
ちなみに、今のマイブームB級グリーンは、「こぶみかん」。
トムヤンクンに浮かぶあの「こぶみかん」。
何でもこの実からできるシャンプーは毛髪の増殖に力を発揮するらしい。
髪に悩むといえば、マスコミと出版関係が浮かぶが、その関係の友人の多くは、髪の毛に何らかの不安がある様子。
吹けば飛ぶようなビミョーなこの時世、煽りをまともに受ける分野のストレスは、経済とは真逆にうなぎ上りだそうだ。

すべからく、友人の○経▲聞の◎山さんで治験し、効果があれば、新しい沖縄の特産物として全国区にしたいと狙っている。(小○さんの再来沖が待ち遠しい〜のである)

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2009年11月30日

ぬちぐすいやさ

ぬちぐすいやさ
このところ南国沖縄もめっきり秋めいてきた。
沖縄では、特にお年寄りは、20℃くらいに気温が落ちると「寒いねえ」と、肩をちぢこませる。40℃に近い気温を長期間過ごせば20℃は「涼しい」のではなく「寒い」のだ。

トウンジー ジューシーこの季節になると、母の得意料理である「トウンジー ジューシー」と「鶏飯」が無性に食べたくなる。
これらは、祖母から代々嫁や娘に受け継がれてきた我が家の味だ。
「トウンジージューシー」とは、冬至の日に食べる炊き込みご飯で、沖縄では炊き込みご飯を「ジューシー」と呼ぶ。
では、なぜ、冬至に「ジューシー」なのか。

うろ覚えの記憶だが、祖母は冬至が昔の大晦日にあたったと言っていた。一年で一番長い夜を過ぎれば、あくる日からは日が長くなる一方なので、冬至の翌日は正月と言った具合であったと思う。
なので、肉や野菜やかまぼこをタンといれた具沢山のぜいたくジューシーは、祝いの食事にぴったりなのだそうだ。
つまり、太陽を中心に考えていた行事なのですな。

でも、沖縄では、月を中心にした陰暦を主に使っていたのではないかい?
今になれば、そういう疑問がわき上がってくるが、当時の私はただ素直に「へえ」と感心しているだけだった。
母にきいても「ごちそうを食べる口実がほしかっただけなのよ」と、そっけない。

鶏飯そしてトウンジージューシとともに仏壇に供えられるのが、鶏飯。
鶏飯は、鶏肉やしいたけや焼き卵の細切り、みかんの皮を干して千切りにした具を放射状に飾りだし汁をかけるカラフルな料理である。
みかんの皮を干したものを漢方では「陳皮」といい、体を温め、代謝を良くするそうだ。ただ、市中の琉球料理店ではこの陳皮が添えられている事に出会った事がない。私的には物足りなさを感じるが、もしかしたら、体の弱い私のための祖母流の具材だったのかもしれないなぁ。まさに命薬だったのね。
みかん
みかんといえば、いつだったか、京都の神社でこのような話を読んだ。
「みかんは、我が国国有の常緑樹で、常緑=永遠ということから尊ばれてきました。昔から不老不死の霊薬とされ、みかんを神火で焼く事により、さらに霊験が加わるといわれています」。
なるほど、闇夜が長い冬至に柚湯に入るっていうのもそういうことなのかもしれないなあ。「体を温める=魔(風邪)を寄せ付けない」ということで「ゆーずー(融通)がきくから、柚湯」って事ではなかったのか。
なにせ、行事やしきたりは健康に過ごす智恵のかたまりみたいなものなので、やっていて損はないのだと、恐れ入った秋の夜なのでした。

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2009年11月23日

真っ白な琉球小スミレ「小雪」

真っ白な琉球小スミレ「小雪」
小雪が出演するあのコマーシャルの、あの流し目の誘惑に勝てる男性は、概していない。
CMの影響でウイスキーがお好きじゃなくても、泡盛を角瓶に入れ炭酸で割るお人も出たというから、なかなかシュールである。
「ロングヘアーの女性」というのなら、ワタクシも該当するので、それならばと、行きつけのクースバーで流し目を試してみる事にした。
オヤオヤ、カウンターの向こうに、いい塩梅にこの店の男性スタッフ、ヨッシーがいますよ。
ここいらでちょっと、目を流してみることにしましょう。

「ボク、なにかしました? 目つき悪いですよ」とか、
「老眼じゃない? うす目になってるよ」とは友人のクーミー。

はて、「流し目」と「うす目」、あの彼女とワタクシの違いはなんだろうと、グラスを傾けると、彼女の魅力は、「白」だと口を揃えていう。
ヒトビトは、「白」がお好きなのだそうだ。たしかに「色白は七難隠す」とか「美白」とか「純白」とか、「オレ色に染まってくれる白がいい」と、便乗する客も出た。「白髪」は別物だと切り捨てられた。
それにしても、ウイスキーのCMに彼女の「白いイメージ」を登用することで、「夜の街の清潔な一面」というイメージを連想させるとは、CMプロデューサーの賢さに脱帽である。
まことに「白」は、摩訶不思議な力をもっている。

植物の世界にも同じ事がいえる。
植物は、葉緑素のおかげで緑色をしており、光合成を行う。詳しくは、理科の教科書を参照していただきたい。
この葉緑素が何らかの理由で失われた時に、葉に白い部分が表れる。
まだらになったり、縞模様になったり、時には真っ白い葉が出現する。
その神秘的な葉の美しさから「錦葉」などとよばれ、縁起物として珍重され高値がついた。一般的には、「斑入り葉」と呼ぶが、そのメカニズムについてはよくわかっていないそうだ。
斑入りスミレ
よくいわれる原因には、ウイルス説、遺伝説、環境説などがあるといわれている。付け加えて「斑入り葉」は、葉緑素が乏しく光合成が充分出来ないため著しく軟弱な場合が多いことから肥培管理を徹底しなくてはいけない。
そういう理由で、出現しても繁殖は難しく長続きしないそうだ。ここらへんの神秘性が「佳人薄命」を思わせ、古より珍重されてきた所以であろう。

しかし、植物は全く持って不思議なもので、荒れ放題の我が家の庭に「真っ白い琉球小スミレ」がぽちぽちと出現した。
猛烈に繁殖するカタバミの中に、白い琉球小スミレが楚々と風にゆれている。夏中、強烈な太陽光線が当たる場所にだ。
カタバミのどん欲な成長ぶりに栄養をとられたか、眩暈するほどの高温と太陽光線で遺伝子が傷ついたか。それにしても、清楚な姿である。

愛犬ももがおいしそうに「小雪すみれ」を…あの緑がいったい何ゆえに「白」に姿を変えたか。吉兆のまえぶれか。私の心に春風が吹いた。
とにもかくにも、「小雪すみれ」と名前を付け、慎重に鉢上げをして様子をみたら、新芽がでてくるでてくる。軟弱なんて、誰がいったのだろう。
こうなれば、珍花「小雪すみれ」で一旗あげようかと、ほくそ笑んでいると、愛犬ももがおいしそうに「小雪すみれ」をムシャムシャ…。
ああ、雪解けは意外にも早くキタ…。

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プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

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2009年10月26日

米寿の黄金言葉「実ー入らー、首折りりー」(by.比嘉淳子)

米寿の黄金言葉「実ー入らー、首折りりー」(by.比嘉淳子)
私事でありまするが、我が舅が旧暦の八月八日に米寿の祝いを迎えた。
まことにありがたい事で、頭も体も弱るどころか、準備から段取りまで子々孫々を駆使し、祝電や祝い客の手配まで指揮系統をまかない、来客に供えての家の修繕をも自らトンカチを持ち、手伝おうとする息子らに「危ないからここに寄るな!お前らにできるかっ」と、檄を飛ばす有様。
もはや、若造の出る幕はございません。

愚嫁のワタクシは、4月号でお伝えしたように舅の米寿を手作りの稲で祝おうとせっせと稲作に励んだものの、なにゆえ、水槽で作った「米」…、一笑にふされる事間違い無しと、はばかっていた。

ところが、ここは“大正の申し子”である。気配り目配りは老いる事なく、末の嫁にまで及んでいた。
愚嫁作のひょろひょろ稲に「立派に育てたな」から始まった沖縄稲作の苦労話。

「昔、この辺りは豊かな田んぼだった。海風も程よく、山から流れる水は清らかで、肥えた土は米づくりに最適だった。
沖縄は気候に恵まれているから、年に2回は黄金のような稲が遠くまで広がったものだ。だけど、稲の頭が垂れるまで幾度も襲う台風や日照り、虫には村中総出で田んぼを守ったものだ。ユイマールだね。
88の手間がかかるから“米”というが、沖縄ではその倍も手がかかる。それだから『アブシバレー』も『豊年の綱引き』も『ウマチー』も欠かせない行事だったさぁ。“米1粒も天からみたら一俵にみえる”って言うさーね〜」。

ほにょにょ、この辺りが田園だったとな? 建物ばかりじゃないかい。
山にはどでかいホテルが建ち並び、海は埋め立てられ、海と山の間は国道で分断されている。田んぼなんてどこにもない。
環境を考える時に、すぐに水や土や空気に目をやりがちだが、実は山がキーワードだという。山が元気だとそれらも準じるように元気になると言う。

…確かに、私が子供の頃描いていた未来予想図には、山はなく、空飛ぶ車や海底都市、ガラスで出来たチューブのようなトンネルでビルとビルをつなぎ、人はその中を宇宙服のような格好で歩いていた。そんな子供が大人になった現代、ホテルでランチを楽しみながら、一方、エコエコエコと、呪文のように唱えながら飽食に子育てをしている。その子供たちはどんな未来予想図を描いているのだろうか。


米寿祝いのクライマックスで、舅が自ら作った式次第に“じいちゃんからの挨拶”があった。

「今日はこのような盛大なお祝いを企画していただき、まことに恐縮いたしております。私は大正、昭和、平成と3つの時代を母ちゃんと共に歩んできました。
大正はさっさと過ぎ去り、長い昭和時代には、戦争と復興、特に、沖縄が日本に復帰した時には、農業しかわからない私が事業を興し、本土の人と対等に商売が出来たのは、ただの根性だけでは成り立ちません。誠意を尽くすと言う事です。学問の無い人間が信用を得るのは並大抵の事ではありません。
私は人にバカにされてきましたが、人をバカにした事はありません。いつの時代も世はそういうものです。これからの時代もそうです。
“実ー入らー、首折りりー(実るほど頭を垂れる稲穂かな)”
威張る事は、下ることだということをじいちゃんからの教えだと心に留めてください」。

いい事を言ってるんだけど、この時既に深夜、皆、疲れ果てて寝てるし…。
こうして米寿祝いの珍騒動はお開きになったのでありました。

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2009年09月28日

「魑魅魍魎を斬る!すすき」(by.比嘉淳子)

「魑魅魍魎を斬る!すすき」(by.比嘉淳子)
ああ、やっちゃったよ…。
あの時、私はマブヤーを落としたらしい。わかりやすく言えば、魂を落とした。

旧暦の8月は、魑魅魍魎がそこかしこに列をなしていると、魑魅魍魎にくわしいKさんはいう。
Kさんによると、お盆にあの世の蓋(マンホールを想像してしまうけど)が、パカッと開いた時、ご先祖様に混ざって魑魅魍魎がうじゃうじゃ出てくるそうだ。
うじゃって出てきた彼らは、あの世の待遇改善をこの世の人間に託すと、話す。

あの時、アタシは盆のウークイを終えた開放感から、ほろ酔い気分でエイサーをみていた。沖縄のウークイは深夜に行われるから、時間は0時を過ぎていたと思う。最後尾の青年がパーランクーのバチを落としたので、それを拾ってあげようとした瞬間、左足首に激痛が走った。石につまずいて足首を捻挫、ブタさんの足がゾウさんの足になり、グラデーション美しい紫に変化した。
そして、その夜から、悪夢が続くようになったのである。

大昔の首里の坂道である。
アタシは美しいお姫サマ。誰かに追われている。お付きの者がバンバカ斬られていく。
「あ〜れ〜」ではなく、お姫サマであろうはずのアタシは、「テメーら、ふざけんじゃね〜!ぶったぎってやる!」(のような、方言で)応戦しているのだが、逃げた屋敷の隠し部屋で脱出法がわからなくなって、ひからびて死んでいくのである。
毎朝、「なんだかな〜」と、わびしさを感じたものだ。

ところが、朗報は思わぬ所から入った。
沖縄では、旧暦の8月10日ごろから、魑魅魍魎を追い出し、家を清めるために「屋敷の御願」を行う。その際に「柴差し」という家に結界を張るまじないも行う。方法はいたって簡単で、屋敷の御願で家を清めた後、すすきを奇数本束ねて作ったサンに桑の枝を刺して、門や敷地の四つ角、トイレに置くだけのクイックまじないだ。
すすきは、中秋の名月に添えられる風情ある植物と思いきや、世界的に呪術における利用率の高い植物で、日本本土でも麦の収穫後の畑にさし、次の豊作を祈願するとか、台湾ではタロイモ畑に害虫よけのまじないでさすなど、各地で活躍している。
沖縄でのすすきは、常緑で3〜6mにまで成長する。地下茎で広がり、葉は細長く、ふちが鋭く「手きり草」の異名をもつほど肌を傷つける植物だ。
一見、さとうきびに似ているので、観光客風に「すすき畑ですかぁ?」などとのたまうと嫌われる、イネ科の植物。

そのすすきのサンを使って「柴差し」兼「8月屋敷の御願」をやっている姑宅のヒヌカンから「おたくの末の嫁さんは、左の足を痛めているし、夢を見せられているから、マブヤー込めをしなさい」の、たれ込み情報があったそうだ。
まったくもってなんでも筒抜けな神様である。油断もスキもあったもんじゃない。家事もせずにガンプラにハマっている事はチクられないよう、脇を固めなきゃ。

で、写真は、マブヤー込めをしている現場写真で、ついでに家族のマブヤー込めもしたので、マブヤー入りの水の写真も置いときました。
アタシの足にしがみついている魑魅魍魎は、サンでたたかれ、あの世に返したとか。
魑魅魍魎でお悩みのアナタ、すすきサンは手軽に作れて威力を発揮します。
すすきさえあれば、すすきを全身にまとえば、いかなる伏兵があろうとも、深夜であろうとも心おきなく酒を満喫できます。ただ、この世の人からは、挙動不審者には間違いありませんが…。

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2009年08月31日

「お盆編」(by.比嘉淳子)

「お盆編」(by.比嘉淳子)
いよいよと言おうか、とうとうなのか、今週は、沖縄旧暦行事のメーンイベント「旧盆」を迎える。
私を含め、沖縄のほとんどの主婦がブルーになる3日間だ(たぶん)。
亜熱帯の刺すような日差しをすり抜け、人ごみをかき分け、市場で買い出しを終えたかと思えば、親類縁者に中元ものを配って歩かねばならない。

長男嫁になった友人曰く、毎年、毎年、結婚した事を後悔する行事だと愚痴る。そんな苦労話を聞くと、五男嫁である事にほっとしたりする。私のような愚嫁が言うのもなんだが、お盆は、文化を継承するにも、躾をするにも良いと、思ふ。

私の祖母は、沖縄のしきたりやしつらいに対して、それはそれはうるさい人だった。
来客があれば、三つ指でご挨拶をし、座布団を出すタイミングやふすまの開け閉め、客人を見送る際の仕草まで口うるさく、もとい、事細かく指導された。
特に、沖縄のシチビ(節日)は、普段から耳にタコもイカも出来るくらい聞かされたものだ。

もうすぐやってくるお盆。祖母曰く、お盆はあの世のお祭りだそうだ。ご先祖さまは、七夕の墓掃除の時に「お盆がくるよ〜」の案内を掛けられると、浮き足立つといっていた。ウチの祖先など、血統からすれば、あの世で目立つほどはしゃぎまくっていることは想像に易い。

さて、ご先祖様ご一同を迎えるウンケー(お迎え日)。
仏壇の掃除を済ませれば、ご先祖さま専用のお箸「ソーローバーシ」を作る。ミソハギの枝を均等の長さに切りそろえるでけだが、職人気分を味わえるから、結構楽しい。
残りの花や葉の部分は、ほうき状に束ね、水を張った洗面器と一緒に置く。実はこれ、遠路はるばるやってくるご先祖ご一同様の足を洗うための道具。
そう、沖縄の幽霊には足がある。しかも、(よくわからないが)あの距離を歩くのだから健脚っぽい。
どうか、時代が進み、私がトートーメーになる頃には、ウンケータクシーなるものがありますように。

ところで、ミソハギはミソハギ科の多年草。
この草の露は物を清める力があると言われ、「禊をするハギ」なので、ミソハギという由来を持つ。
昔は、水をしみ込ませたミソハギの枝や葉を振り、その水しぶきで供物や部屋のお清めをしたという。
また、全草でよく水を含む事から、あの世の人の乾いた喉を潤すのに丁度よいそうだ。ここで、グラスを置けよと、突っ込むのは罰当たりだろうか。
全草薬効が期待され、煎じれば胃腸炎、葉や花を湿らせ冷湿布に、また、靴擦れ、草かぶれ、切り傷にも効果がある。
つまり、薬草の箸で胃腸炎対策し、冷湿布で疲れた体をほぐす、その上、靴擦れ対策まで施されている。死んで尚、健康でと、願うところは長寿の国らしいおもてなしだ。

「うとぅいむち(おもてなし)の心」は、周囲の人を感心させ、なごませ、相手を受け入れている事を示すものである。
沖縄の伝統行事の一つ一つにも、学ぶ事が多いはずだ。

「神畏りーしーねー、物習れーぬ元(神様を畏れる事は、物を習う事と同じ)」
見えない世界の住人にも、礼儀をつくすことは、現実の社会に置いても役に立つ。という黄金言葉。
今年のお盆は、伝統行事の深さや黄金言葉が心に響く人が増える事を、うーとーとーしましょうね〜。

比嘉淳子の『ryuQ100花』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73394.html


プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社)が発売中。
  


2009年08月24日

「国防か?欲望か?葉月にガンダムに学ぶ」(by.比嘉淳子)

「国防か?欲望か?葉月にガンダムに学ぶ」(by.比嘉淳子)
実物大のガンダムがお台場に出来たと、ヨーコ(友人1)がいうので、ワタクシは、沖縄から空路で東京お台場に飛んだ。
お台場は、かつてペリーが幕府に「開国しろよっ」と迫ったもんだから、御上は「コレ、ヤバくね?」ってんで、あわてて品川近海を埋め立てて造った砲台場跡。砲台があった場所なので「お台場」なのだ。
そんな歴史的にも意味ありげな場所に「1/1ガンダム」は仁王立ちになっている。やはり、この国を護るとなるとガンダムなのか。しかし、敢えて言おう。アタシはその辺の空気をずっと前から読んでいた。日本の特撮物やヒーローものが世界一なのは、事変に備えてのものだと。
海風強く、木陰少なくて暑い、潮風公園というさわやかな名前の公園に18mガンダムはいた。アムロもどこかに紛れていそうなほどの人ごみだ。

「おぉ!デカッ!」おもわず合掌。大仏を見た古の人もそうしただろう。
それにしても、充血した鋭い眼光、発奮して出る湯気、興奮している様子がうかがえる。その目はかの国を見据えているのか、はたまた、ララァいるニライカナイなのか。
そこで、私は応援を要請した。

「いとうしゃーん(友人2)、ガンダムの前にいるよ〜。パレット久茂地みたいに大きいよ〜」。思わず、田舎者の素が先に出た。
その友人2がいうには、実はこのガンダム、地球防衛のためでも国防のためでもなく、「都市の緑化推進及び公園の活性化、各種の文化発信を図ることを目的にしている」都民と企業と行政が一体となって、東京のメッセージを伝えるという「GREEN TOKYO ガンダムプロジェクト」という活動らしい。これに、ガンダムの放映30周年をドッキングさせたイベント。サポーターのガンダムが緑化を促す事で、緑あふれる都市東京をアピールして2016年のオリンピックを誘致しているものだ。

クワディサーの種をモデルにしたウルトラマンなるほど! 既存のヒーローを使えば、新しくユルユルキャラを作らず、その上、長年のファンが集まり、お金をチャランチャランと落としていってくれる。
かくいう私も限定ガンダムグッズを大人買いする乗せられキャラだったりする。
緑地化運動にガンダムがサポートしてくれるなんて、シャアもジオン軍も足ガックンなことだろう。
一方、神戸でも官民一体となって阪神淡路大震災の復興と観光客の集客を狙い18mの「鉄人28号」を製作中だという。

ガンダム見たさに熱中症になり、点滴さなか「沖縄の緑地化と観光について」を考えた。こんな私もガンダムの御陰でニュータイプに開眼したのかもしれない。
そう、我が沖縄には永遠のヒーロー「ウルトラマン」がいる。しかも、ブラザーズだ。

18mウルトラ兄弟をヤンバルから離島まで配置。もちろん、目抜き通りの保安灯はウルトラビームで町を照らし、ウルトラマンベンチで疲れた足を休め、カネゴン募金箱で緑地化募金を募る。限定グッズの売り上げはサンゴを守る活動に充てればいい。

クワディサーの種をモデルにしたウルトラマンが、沖縄の起爆剤になるには誰にお願いすればいいのだろう。火照った頭ではここまでしか考えられなかった。

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2009年07月27日

パパイヤのオネエ系と、パッションフルーツはキリストの受難

パパイヤのオネエ系とパッションフルーツはキリストの受難
成り立てほやほやのドクターに、先輩ドクターはこう言うそうです。
「女性をみたら妊娠と思え」。
コレ、基本中の基本だそうで、なんでも、体の変調が妊娠によるものか疾病によるものかとか、検査や投薬にも留意点があるからだそう。
ふ〜ん。
ではでは、病院の待合室ですれ違ったあの若いドクターは、蓄膿症で座っているアタシのことも「妊婦」と疑ったのかしらん(笑)。
そんな不埒な事を考えつつ、脂肪でふくれあがったお腹をさすりながら庭のパパイヤを見つめていた。

パパイヤには、オス、メス、両性があり、メスか両性なら自家受粉するものの、オスであれば縁組みをしなければならないらしい。
ああ、めんどくさい。
植物の中には、こんなクセ者がたまにいるからややこしい。
それに、狭い庭にオスメス両方をそろえるほどパパイヤが好きかと言えば、そんなことはない、というか、食傷ぎみと言う方が正しいかも。
その昔、パパイヤの実は母乳を出すとかで、魚汁とパパイヤイリチーの日が続いたことがあった。それからというもの、パパイヤ=おっぱいの固定観念がついてしまって、私にはもう用がないと潜在的に拒否反応を示すのだと思う。

我が家のパパイヤは、「ウティミー(こぼれ種)」、天からの授かり物なのだ。
はたして、我が家のパパイヤはどちらなのか見てもらう事にした。
オスかメスか、はたまた両性か、花を見て(わかる人には)わかるという。いわば、花は「生殖器」、果実は「愛の結晶」ということだろうか。

で、「わかる人」に見てもらったら、
「これは、オネエ系だね」。
つまり、両性だという。へえええええ!!
どうりで根っこの絡みが内股気味だったのね…。
オネエなパパイヤ。パパなのかママなのか。
もはや、意味が分かりません。

さらに、恋愛成就にはキューピットである虫の活躍が必須なのだけれど、都会じゃ虫すら飛んでいないから、人間による「婚活」が必要になってくるという。筆でパタパタとすればいいだけとアドバイスをもらった。
ああ、めんどくさい。
その上、極めつけの条件が「香り高い花が受精率は高く、早朝なら尚良し」という。
ああ、もっとめんどくさい。
パパイヤなんてスーパーにいけば買えるものを、ネタのためにやりましたよ。昆虫の代わりに筆パタパタを。

この一連の作業を自慢したくて園芸の師匠である義父に報告したら、たまにオスでも実をつけるので、オスメスにこだわらないとサラリ。
しかも、パパイヤの果実の先っぽにある種は「メス種」が多く、幹に近くなる柄の方には「オス種」がつく事が多いと、爪を切りながら答えてくれた。あぁ、88才の翁のうんちくは深い。

ものはついでに、膨らんできたパパイヤの実の傍であばれている「パッションフルーツ」、コヤツも悩みの種になっていることを相談した。
名前が「パッション(情熱)」なので、そりゃあたわわに実を付けるだろうと高を括っていたけれど、いっこうに実がならない暴れん坊だ。
「大きくてめっちゃ甘い実がつく珍しい苗だよ」がウリだったこの株。時計草の別名とは雰囲気たがうイソギンチャクのような花をつける。翁はいった。
「これこそ、違う株の花を筆パタパタせにゃならん」。
「……」。
パッションフルーツは更の名を「キリストの受難」。まさにそんな気分だ。
草食男やら婚活などが取り沙汰される今日、植物だって婚活はキビシーのだ。ちまたでは拝みで息子に良縁をと「親による子供の婚活御願」が増えていると聞くと、ため息の出る話だ。
沖縄の方言で結婚を「ニービチ」、根を引くと漢字をあてる。
つまり、株分けですな。この語源、自立した大人の結婚を表すパンチのある言葉だと、おばさんは感心しちゃったりするんだけどね。

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2009年06月22日

オキナワ エディブルフラワー(by.比嘉淳子)

オキナワ・エディブルフラワー(by.比嘉淳子)
今年の4月、左下腹部にしこりを見つけた。
大学時代の友人を最近亡くしたばかりなので一抹の不安がよぎる。
昨年の春、東京の彼女の家を訪問した折、ベランダで採れたと自慢のハーブの花を散らしたすてきなランチをともにした半年後、帰らぬ人になったのである。

「道ばたに咲いてるような花もこうして皿に並べると砂糖菓子のようでしょう。エディブルフラワーって言うのよ。よく道ばたの花を摘んでクッキーにいれたりするの。雑草なんて呼ぶのはかわいそうよ。ハーブってよんであげてね。沖縄はたくさんのハーブがあってうらやましいなぁ。いつかは沖縄でハーブの料理店をやりたいからその時は手伝ってね」が、最後の会話であった。私とは違った人種である事は間違いなく、いい人は早世するってホントだなぁと、つくづく思ったものだ。

彼女に巣食った子宮ガンは進行が早く、気づいた時には手を付ける事が出来なかったという。

ぐりぐりのしこり、とうとう来たか…、チト早いようにも思うが、残された時間を診断してもらってやりかけの仕事を片付けなければ…。
こんなところは、A型なのである。というか、だったら早く原稿出せよ!と、突っ込まれそうだが、火が付かなきゃ動かない尻も自慢なのだ。

病院へ行く朝、娘に電話をした。
「落ち着いて聞いてね。ママ…左下腹部にしこりがあってね。これから病院へ行ってくるけど、もし、癌なら…」パパと弟の事を頼むねと言いたかったのに、
「癌なら、ウチの大学の治験に協力してね。じゃ、忙しいから。ツーツー…」。
ひさしぶりに怒髪天をつかれ、聞く主の無い電話に向かって罵声を浴びせた後、婦人科の外来である。
かわいい赤ちゃんや幸せそうな妊婦を見て、かつて私も娘もかわいかった事を思い出していた。「かわいいですね〜。そうですか、生後一ヶ月検診。でもね、生後20年も経てばムカつく事が多くなりますよ。親にくっついてくるかわいいお顔の記憶を焼き付けておいてくださいね」。
若い母親へ、私からの精一杯のアドバイスである。

いよいよの診察室、同輩の女医のどんな痛みですか?の質問に、
「刺す痛みでもなく、転げ回るような痛みでもなく、押したらなんか痛いっぽい?そう、不安を助長するような、でも、まったりとした上品な痛みですね」。
私は病気をした事が無い。人の痛みの閾値なんてどう測るのだろう。
爆笑をもらった診察の結果、どこかに炎症があってリンパ腺が腫れているのでしょう。薬を出しておきますから、また遊びにきてください。で、私の癌疑惑は消え去ったのである。

帰り道、うららかな春の風に押されて入ったおしゃれなカフェで、琉球コスミレやカタバミの花が散らされているサラダをよそわれ、あの日の友人の顔が浮かんだ。道ばたで密かに咲く花の美しさに気づき皿の上に踊らせた彼女の繊細なセンスが今更ながら惜しまれてならない。きっと生きていたら今日の事を笑って泣いて喜んでくれたに違いない。そんなアホな報告をする相手のいない喪失感は大きい。

かたばみは沖縄では「ヤファタ」と呼ぶ「オキザリス」という植物である。
琉球王朝時代、中国から観賞用に移入されたもので、当初は物珍しさから珍重されていたというが、イモ畑を全滅にするほどの驚異的な繁殖力で次第に毛嫌いされるようになった。糸満のお年寄りは「野国総監は芋を中国から持ってきて琉球を救った英雄だが、◎×▲親方はヤファタを持ってきて、初めは英雄扱いされていたが、後からウフソウムン(愚か者)になった」と笑う。

ピンク色の花は子供の頃、ティアラを作って遊んだ思い出のある女性は多いのじゃないかしら。ウチの愚娘も小さい頃、ママへのお土産といって小さな手いっぱいにこのヤファラを摘んできてくれたっけ…。
沖縄のエディブルフラワーを食べながら、友人もこの花を食べていたのかなぁと寂寥の想いにかられてしまった。

家に着くと薄暗くなった部屋のパソコンの青い光が娘からのメールを知らせていた。
「母ちゃんへ。
どうせ、どこかに炎症でもあったんでしょう。太る癌はないって教授もいっていました。でも、心配ならいつでもウチの大学病院に来てくださいって。とりあえず、母ちゃんが心配している婦人科系の病気の症状と検査、診断、治療法を簡単に説明したものを添付しました。ただし、癌になるのは私が一人前になって手術が出来るまで待ってください。絶対に治して学会のネタにしますから」。
フン!アタシは華岡青洲の母にはならないようだ。
小さいおててに摘まれた「ヤファタ」の花束の思い出だけで充分親孝行なのだから。それになによりも、男前な娘の花嫁姿を見るまでは、いや、仕送りの義務が終わるまでは死ねないし。

嫌われ者のヤファタのエディブルフラワーは甘酸っぱい味がして意外においしくてイケル。ならば、美しくも雑草扱いされる強靭なこの花の様にしぶとく生き抜いてみせようじゃないの!
ちなみに花言葉は、「あなたとともに」「輝く心」である。

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