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2010年02月22日

「花咲か爺さん」

花咲か爺さん
師匠(舅89才)は、他人様の家や庭チェックを趣味としている(決して、のぞきではないので誤解のないように)。
他人の家の壁をガンガン叩き、材料の善し悪しから石の顔まで細々に、である。

そうそう、デザイナーが設計したという家にお呼ばれしたときも、新築間もない壁をガンガン叩き「へっ」と言ったきりだった。その上、庭土をつまんだときなんかは、眉間にシワを寄せ、「偽物」と捨てるように言い放った。土に偽物があるものか?と、思いつつ師匠の話に耳を傾けた。

昔ながらの家屋「沖縄の土は、地域によって顔が違う。
山があるか、海が近いか、風は吹くか、気温はどうかで、育つ植物も違う。
この土地でこの客土をしては、水はけが悪く、家との相性が悪いのでカビが発生しやすくシロアリやにおいに悩まされるはずだ」という。

自慢の家をぼろくそに言われた主は、師匠の妻(私の姑)に後ろでクレームをつけていたが、そのクレーム、後で後悔するはめになった。
築後1年で、ぜんそくとシロアリに悲鳴を上げたのだ。

デザイナーズ住宅の主は、師匠に頭を下げ指導を仰ぎ、大金を掛けて家を大改造したのである。
そして、リフォーム後、「なんということでしょう」と驚くほど風通しが良くなり、クーラーを入れるのを忘れるくらい。しかもぜんそくの薬もいらなくなったと言うのである。
恐るべし年の功。
「ワッターじいさんも亀、ばあさんもカメ、二人ともカメと言う名前だから、亀の子さぁ〜」と、親父ギャグも天下一品である。

立派な琉球松師匠は、時折、弟子の私を連れて古民家訪問をする。
傍目で見れば、老人を散歩させる良い嫁ふうなぁなのだが、これは実習なのである。
しばらく弟子の私を放牧させた後、口頭試問が始まる。
「あの木のどちらが、八重山黒木か?」
(わかりません。どこ産って関係あるの?)
「どちらが琉球松か黒松か」
(さぁ…?)
「葉が長くて、幹が荒れて迫力あるのが琉球松だ。何を見ている!」
そこに助け舟がきた。

この家の長男が、黒木を植えた直後、全ての葉を落とし、今ではすっかり枯れ木のようになったと言うのだ。実物を見たら、想像を超えていた。枝振りはしっかりしているものの、葉一枚ないのである。
師匠は、枝をムンズと握り、上下に動かし、大きな幹に耳を当てた。
「大丈夫。生きている。植え替えのショックで葉を落として調整しているだけだから、毎日たっぷり水をやれば生き返るよ。水を節約しては、木は育てられないよ」自信満々である。

真似て耳を幹に当てたが、ひんやりしているだけで、これといった音は聞こえない。
すると、師匠がムギュウ!と力一杯に私の頭を木に押し当てたのだ。
あがががが。と、抵抗するも、
「骨で聞くんだよ。このひんやりは水が上がっている証拠だ」そうだ。
骨伝導かっと、ちょっと怒りを抑えつつ、古民家のおばさんのお言葉に甘えて、縁側でお茶をいただく事になった。プチわじわじーの後なので、寡黙に徹する私。

そのおばさんによると、この家は、側で猫とじゃれあっている師匠が60年前に作ったそうだ。
若かりし師匠は、材料の切り方まで、それはそれは口うるさく指導したそうで、かつての大工さんに心より同情する。

師匠は言った。
「この家がなぜ60年もシロアリやカビに食われないかわかるか?」
こういう事だそうだ。
建築材料は地元産が一番。土地の癖を知り尽くしているからだそうだ。
そして、自然を真似れば長持ちする。
例えば、外部に使う柱と家屋に使う柱の切り方は違う。
外柱は、土に生えている状態をそのままにした方がいい。多少の曲がりは、台風にしなって家を守ってくれる。
また、木を地際ギリギリで切る事で水と空気の両方に対応し、土中の微生物に抵抗力のある境目を底にする事で、シロアリの害を防ぐ事が出来るそうだ。

「お前の庭の八重山黒木。60年後に立派な床柱にしてやる!」
60年後って師匠、それはいくらなんでも。それとも、亀の子は万年ですかい。

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「花咲か爺さん」
「花咲か爺さん」プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。



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