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2007年08月27日

『沖縄節日(うちなーしちび)と植物・旧盆』

『沖縄節日(うちなーしちび)と植物・旧盆』
沖縄では、旧暦の7月13日から15日の3日間を旧盆の期間とし、あの世から帰省した(?)ご先祖を中心に親族が会し賑やかに過ごします。
ただ、沖縄独特のしきたりの多さからか、この時期になるとブルーになる女性が多いようです。しかし、親にとっては激動の3日間かもしれませんが、子ども達にしてみれば、久方ぶりに会う親戚に成長を喜んでもらい、年配者からは、一族のルーツや慣わし、昔からのよい教えを被る絶好のチャンスでもあるのです。
私なんぞは、中元の品が店頭に陳列され始めると祖母の言葉を思い出します。
「お線香をあげる気持ちが孝行だよ。物を持ってこなくてもいいよ。心を込めて親ファーフジに、いつも守ってもらってありがとねーっていう感謝の心が一番の贈り物だよ。」
当時、子沢山で経済的に苦しかった親戚は、この言葉に救われた、と今でも盆にやってきては亡き祖母の話で盛り上げてくれます。
昔の人の言葉には、魂がありました。
物ではなく、言葉で心が充足した時代だったんですね。
まどろっこしいことはいわない、「さりげなさ」が粋なんです。

沖縄のお盆といえば、お供え物にも独特な「心遣い」があります。
まず、珍しいところでいえば「グーサンウージ」。
『沖縄節日(うちなーしちび)と植物・旧盆』
サトウキビを仏壇の両サイドに置きます。グーサンとは、杖のこと。つまり、サトウキビの杖という意味。なんと贅沢な杖でしょうか。これには、あの世の人が転ばないように、という気持ちが込められているとか。
なんで竹じゃないのか?
なんでも、あの世は遠すぎるから途中途中に栄養をつけなくてはならず、サトウキビだと栄養を補給しながら来れるから、だそう。カルシウム、鉄、カリウム、マンガン、亜鉛などのミネラル分を豊富に含むサトウキビは、あの世の人の栄養補給にも一役かっているようだ。

また、サトウキビは倒れても自分で起き上がる習性があるので、亡くなったおじいがこの暑さで行き倒れになっても、サトウキビは自然と起き上がり家族の元へ連れてきてくれる、という。至れり尽くせりな歓迎ぶりだ。あくまでも、我が家に伝わる話であるが…。

いよいよサトウキビをかじりながらご先祖様が懐かしい我が家に到着されたら、あらかじめ用意してあったメドハギの葉と洗面器の水で道中の足の汚れを落としていただき、さっぱりしたあとで家へ入場していただく。結構、きれい好きなことに驚く人は多いが、ひねくれ者は、足があったのね、と突っ込みを入れた。さすが私のおばあさん。「うちのじいちゃんは、幽霊じゃないから」と返した。亀の甲より年の功である。

このメドハギの枝は、「ソーロー箸」という亡くなった方専用の箸にも使われる。
じゃ、なぜメドハギなのか?
沖縄では、蝶々はあの世の使いといわれる。
「メドハギの花は、蝶々に似ているからだ」と祖母は言った。
ちなみに、メドハギは古く占いの「めどき」に用いられたマメ科の植物である。
若い葉は解熱や利尿剤としても使われたそうだから箸に使っても安全である。
解熱効果があるならば、なるほど、夏の熱にほてった足を覚ますにいい植物選択なのかもしれない……

『沖縄節日(うちなーしちび)と植物・旧盆』
さて、落ち着いたところで、仏壇に目をやると、生姜が葉や茎をつけたまま供えられている。
しょうがのきついニオイで、盆のドサクサにまぎれて進入してきた餓鬼や無縁仏を撃退できるそう。しょうがのニオイ効果で一掃された仏壇に鎮座した御先祖たちは、飲めや歌えの楽しい3日間を送り、
そして、かわいい子孫や親族らが入れ替わり立ち代り、次々に線香を上げる様子を見て、うれしさを線香の燃えるさまで現すのだそう。

「アカバナーのように、赤々と燃えているねえ!アカバナーの花びらのように、線香が真っ赤に広がるように燃えるってことはね、親ファーフジがとても喜んでくださっているってことだよ。みんな、ありがとうね〜!今年も皆の健康を守っているからね〜!皆なかよくして、来年もよろしくね〜って言っているよ」
今でも祖母の声が、ニオイと共によみがえる。
たくさんの親ファーフジからの教えを、子や孫に託す日。
お盆って大切な日だったんだなぁ。
『沖縄節日(うちなーしちび)と植物・旧盆』
プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社)が発売中。


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