2010年06月07日
私家版の妙・Oさんの『夏の出来事』と『父の約束』

僕が二十代後半、出版・編集の仕事を始めた頃知り合った諸先輩の方々が、定年を迎えるようになった。諸先輩というか、ひとつ半くらい上の世代という感じか。復帰の頃大学生くらいで、当時四十代だ。僕の周りにたまたまだったのか、また職業柄新しい書き手を捜していたからか、妙におもしろい大人と出会っていた。組織の中でかっちり仕事をこなしつつ家族を愛していて、それでいて、いやだからこそ自分なりのテーマを持って、ある時は社会運動として、またある時は華やかな舞台に、ある時は文章としてまとめたりして、そしてなにより冗談が通じるし…。非常に個性的な世代だなぁと、ちょっとしたあこがれを持って接していた。こんな大人になれたら楽しいだろうな…。
今自分がその歳頃になって呆然としている。コンナハズジャナカッタノニ。
先日、そうつい三日前のこと。一冊の本が郵送されてきた。定年を迎えたと噂に聞いていた南風原のOさんの本だ。私家版らしい手触りの本のタイトルは『父の約束』。

〈「かずきーの目は何でもなかったよ」
その一言によって僕は、父の子になった。〉
青春の放浪と社会への葛藤と、家族、そして郷土への愛情に満ちた詩もまた独特の諧謔があって、おもしろかった。「人は誰しも心の中に一冊の詩集を秘めている」と、僕は感動しながら編集したものだ。おもしろいのは、身近な人たちも、Oさんがそんな詩や散文を綴っていたことを知らなかったことだ。突然まとめられた本に驚いたり、うれしがったり。実は、家族、特に成長していく子どもたちに向けてのメッセージであることもふくめて、私家版はこうじゃなくっちゃ、である。この本は一応ボーダーインクが版元となり本屋さんにも並んだ。もしかして読まれた方もいるかもしれない。いい本です。

〈これは僕の遊びである。軽い鼻歌である。無邪気な協奏曲である。思想はない。これはまた無農薬の無機質野菜である。味もなければ毒もない。これが僕の正体である。これ以上でも以下でもない〉
と「序」にある。Oさんのことを知っている人はこれだけでいろいろニヤリとしてしまうことだろう。もしくは、うむむとうなるか。
僕はうなったクチである。タイトルの『父の約束』であるが、これがびっくりする話しなのである。五十年前、父親がある人と交わした約束、「息子を養子に出す」。それをOさんが突然叶えなければいけなくなったのである。
〈死んでも親は生き続けるものだと、つくづく思う〉(「了」あとがき より)
詩もかなりのボリュームで綴られている。週末はゆっくり、『夏の出来事』の続編であるこの素敵な私家版を読んでみるとしよう。
南風原文化センターの父たるOさん、人生の第四楽章の旅へ、お身体ご自愛のほどを…。
●新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html

プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/
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