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2010年04月05日

宮古発の、良質な大衆小説とは。『蓬莱の彼方』森田たもつ

宮古発の、良質な大衆小説とは。『蓬莱の彼方』森田たもつ
 沖縄県内に文学賞はいくつあるだろうか。沖縄タイムスが主催する「新沖縄文学賞」と、琉球新報の主催する「琉球新報短編小説賞」と「新報児童文学賞」、県の外郭団体がおこなっている「おきなわ文学賞」、さらに沖縄市社会福祉協議会が主催でタイムスが後援している「ふくふく童話大賞」あたりがよく知られているものだろう。
 このうちの「新沖縄文学賞」と「琉球新報短編賞」と「おきなわ文学賞」を、最近の三年の間に立て続けに受賞した新人作家がいる。その森田たもつ氏の初の作品集が、三月にボーダーインクから刊行された。今回はそのお話。

『蓬莱の彼方』森田たもつ タイトルは、第三十四回新沖縄文学賞受賞作である『蓬莱の彼方』。戦後すぐの宮古島と現在の宮古島、台湾を結ぶ、ヒューマン・ミステリーだ。他に、東京の片隅でひょんなことから訳ありのフィリピン女性と出会った沖縄出身の中年ミュージシャンが、その人の良さから巻き起こす勘違い人情喜劇「オールド・マーチン」、振り込め詐欺を計画する一座に参加した男が、電話越しの名も知らぬお袋との出会いから聖夜の小さな奇跡が起こる「メリークリスマス everybady」、性同一障害の息子の存在を認められずに悩む、島に単身赴任中の教員が、親子・夫婦の関係を見つめ直すまでを描いた「ボタン」が収められている。

 そのいずれもテレビドラマの原作になりそうな、味わいのある物語である。大衆小説という言葉は死語かもしれないけれど、あえてそう呼びたい気がした。人情味あふれた良質な娯楽作品として成立しているのだ。それは、宮古の児童文学作家である、もりおみずき氏が本書の「発刊によせて」で述べているように〈心優しく、不器用だけれども、懸命に生きている愛おしい人たち〉が、森田作品の核となっているからだ。
 おきなわで描かれた小説というと、土着的な島の風土、文化、社会背景がどうしても色濃く作品の中で描かれる場合が多い。表題作の「蓬莱の彼方」の場合、宮古島を舞台にしているのだが、そうした土着的な部分に寄りかかることなく描かれている。例えば宮古の人たちが登場しても、宮古口で描かないというようなことだが、それが普遍的な大衆小説としての感動をまた与えているのではないだろうか。
目次
 ジャケットの絵は、宮古のフォークシンガー・のひなひろし氏で、これまた味あるの島の風景である。著者の森田たもつ氏は宮古島で歯科医をしている。というわけで、もりおみづき氏もふくめて、実はオール宮古でまとまっている作品集なのだった。
 森田氏には、いずれ沖縄初の直木賞あたりを目指して欲しいと思った次第である。

新城和博の『ryuQ100冊』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73391.html

宮古発の、良質な大衆小説とは。『蓬莱の彼方』森田たもつ
プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/



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