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2010年09月27日

『木、気、奇、器』

木、気、奇、器

*人と植物との関わり

読者諸氏のなかに、植物が活力増強の一助になりえる、という方はどのくらいおられるだろうか?
例えば、この木をみるだけで一服の清涼剤になるのよね〜、とか、大木に抱きつくだけで心がすっきりするのよ、私の周囲だけでも木が心の活力剤になっている人は多い。
植物は、私たちがこの世に現れる前から私たちの出現を予見していたかのように酸素を放出し準備を整え、受容し、共存してきた。
さらに、漢方や生薬など植物の特性が、薬効として私たちの体の変調を改善してくれることもある。
植物もさながら鉱物も薬になる事を考えれば、生物の体は地球上の物質と連携するようプログラムされているように思えてならない。
もの言わぬこれらと、である。


*活力増強木はありますか?

がじゅまる私にとって活力増強木は「がじゅまる」である。
沖縄を代表する「がじゅまる」は、常緑高木の広葉樹で、幹や枝枝から木根を垂らし杖のようにしたり、他の植物に被い被さり絞め殺したりする。しかも、放置すれば高さ20m以上にもなるというから、都市部ではまま迷惑がられている木である。

そんな「がじゅまる」であるが、老木になれば、無数の支柱根が枝を安定させ、木上に悠々快適な空間を作り出し、子供達にとっては秘密基地を作るよい物件になったものだ。
私の「がじゅまるハウス」は、近所の亀甲墓の庭に植えられていた物件で、マズイ事をした後の避難場所、兼高倉式秘宝館であった。

ある日、学校から帰るといきなり母から大目玉を食らった。
兄の貯金箱のお金がなくなっているという、濡れ衣である。
日頃より、いたずらや意地悪三昧な私が真っ先に犯人にされたわけで、今でも胸を張っていえるが、決して私ではない。おやつは獲っても金目のものは盗らないのが私流である。

それからというもの、ご飯と就寝以外は「がじゅまるハウス」で過ごし、「母ちゃん、兄ちゃん、バカ」と悪口雑言をノートにしたため、涙しながら「がじゅまるハウス」で昼寝をし、探しにきた祖母に促されて帰宅するという日を送っていた。
「がじゅまるハウス」の裏には一人の老婆が住んでいた。つまり、隣人である。
その老婆はなぜか一人暮らしで、祖母からは近寄ってはならないと強くいわれていたので、「がじゅまるハウス」から目が合ってもわざとそらしていた。

「がじゅまるハウス」ストライキからどのくらい経った頃か、「きじむなーは出たねー?」と、老婆が聞いてきた。
無視する私になおも、
「この木にはきじむなーがいるよー。毎晩毎晩、このおばーのところに来ては、アンタが邪魔だっていっているよー。早く出て行かないと目ん玉を取られるよー」と、軒下でいう…

がじゅまるそれを聞いているうちに、安楽の住処であったはずの「がじゅまるハウス」が「恐怖の館」に変化した。そろりそろりと地上に下りると、老婆が黒砂糖を差し出し「母ちゃんの事をあんな風にいわないよー。“親は塩に漬けてでも置いときたい”っていうよ。親の言う事はききなさい…」。
そう語りかける老婆の話をたたむように、
「だれが母ちゃんのいう事をきくかっ」と、黒砂糖をわしづかみにして家に帰った。

それからは「がじゅまるハウス」も老婆にも会っていない。
というか、老婆はしばらくして病院に入ったと、大城商店のおばさんが言っていた。


*「親は塩漬けにしてでも置いときたい」

あれから数十年。
母の受診のために車を走らせていたら、工事のため迂回せざるを得なくなり、あの場所を通った。
亀甲墓もがじゅまるも既になく、大きな道と住宅になっていた。
傍らの母が、
「あの時ね、ごめんね。兄ちゃんのお金はドルから円に交換するために銀行に持っていってたの忘れて、アンタを傷つけたね。がじゅまる裏のおばあちゃんからこっぴどく怒られたけど、あの時は私も若くて意地になったさぁ。」
「ぬわんだとおぉーっ!!」と、怒りを覚えつつも「そんな事あったかねー」と、逆に母に気遣う。
聞けば、あの老婆は幼い頃、辻売りされた辛い過去を持った女性だったという。
それでも、辻から独立した後、老いた親を引き取り最期まで面倒を看て、生涯独身でこの世を去ったそうだ。

あのがじゅまるには、きじむなーが確かにいたと思う。
少なくとも、私の心の傷を癒してくれた。
大人になった今でもエネルギーを充電してくれる。そこにいるだけで、深い懐に抱かれたような気持ちにさせてくれたのだ。
そして、今でも聞こえてくる「親は塩漬けにしてでも置いときたい」。
これは、きじむなーからのメッセージだったのかもしれない。

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『木、気、奇、器』
『木、気、奇、器』プロフィール:比嘉淳子(ひがじゅんこ)

2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。



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