2009年10月26日
米寿の黄金言葉「実ー入らー、首折りりー」(by.比嘉淳子)

私事でありまするが、我が舅が旧暦の八月八日に米寿の祝いを迎えた。
まことにありがたい事で、頭も体も弱るどころか、準備から段取りまで子々孫々を駆使し、祝電や祝い客の手配まで指揮系統をまかない、来客に供えての家の修繕をも自らトンカチを持ち、手伝おうとする息子らに「危ないからここに寄るな!お前らにできるかっ」と、檄を飛ばす有様。
もはや、若造の出る幕はございません。
愚嫁のワタクシは、4月号でお伝えしたように舅の米寿を手作りの稲で祝おうとせっせと稲作に励んだものの、なにゆえ、水槽で作った「米」…、一笑にふされる事間違い無しと、はばかっていた。

ところが、ここは“大正の申し子”である。気配り目配りは老いる事なく、末の嫁にまで及んでいた。
愚嫁作のひょろひょろ稲に「立派に育てたな」から始まった沖縄稲作の苦労話。
「昔、この辺りは豊かな田んぼだった。海風も程よく、山から流れる水は清らかで、肥えた土は米づくりに最適だった。
沖縄は気候に恵まれているから、年に2回は黄金のような稲が遠くまで広がったものだ。だけど、稲の頭が垂れるまで幾度も襲う台風や日照り、虫には村中総出で田んぼを守ったものだ。ユイマールだね。
88の手間がかかるから“米”というが、沖縄ではその倍も手がかかる。それだから『アブシバレー』も『豊年の綱引き』も『ウマチー』も欠かせない行事だったさぁ。“米1粒も天からみたら一俵にみえる”って言うさーね〜」。
ほにょにょ、この辺りが田園だったとな? 建物ばかりじゃないかい。
山にはどでかいホテルが建ち並び、海は埋め立てられ、海と山の間は国道で分断されている。田んぼなんてどこにもない。
環境を考える時に、すぐに水や土や空気に目をやりがちだが、実は山がキーワードだという。山が元気だとそれらも準じるように元気になると言う。
…確かに、私が子供の頃描いていた未来予想図には、山はなく、空飛ぶ車や海底都市、ガラスで出来たチューブのようなトンネルでビルとビルをつなぎ、人はその中を宇宙服のような格好で歩いていた。そんな子供が大人になった現代、ホテルでランチを楽しみながら、一方、エコエコエコと、呪文のように唱えながら飽食に子育てをしている。その子供たちはどんな未来予想図を描いているのだろうか。

米寿祝いのクライマックスで、舅が自ら作った式次第に“じいちゃんからの挨拶”があった。
「今日はこのような盛大なお祝いを企画していただき、まことに恐縮いたしております。私は大正、昭和、平成と3つの時代を母ちゃんと共に歩んできました。
大正はさっさと過ぎ去り、長い昭和時代には、戦争と復興、特に、沖縄が日本に復帰した時には、農業しかわからない私が事業を興し、本土の人と対等に商売が出来たのは、ただの根性だけでは成り立ちません。誠意を尽くすと言う事です。学問の無い人間が信用を得るのは並大抵の事ではありません。
私は人にバカにされてきましたが、人をバカにした事はありません。いつの時代も世はそういうものです。これからの時代もそうです。
“実ー入らー、首折りりー(実るほど頭を垂れる稲穂かな)”
威張る事は、下ることだということをじいちゃんからの教えだと心に留めてください」。
いい事を言ってるんだけど、この時既に深夜、皆、疲れ果てて寝てるし…。
こうして米寿祝いの珍騒動はお開きになったのでありました。
●比嘉淳子の『ryuQ100花』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73394.html


2児の母。すっかり“沖縄のおばぁ”的存在になりつつあるこの頃。
『沖縄オバァ列伝・オバァの喝!』『オジィの逆襲』『沖縄オバァ列伝・オバァの人生指南』(双葉社刊)、『琉球ガーデンBOOK』『よくわかる御願ハンドブック』(ボーダーインク社刊)、『琉球新報・うない』『琉球新報・かふう』のほか、新刊『家族まるごと福お祝いマニュアル』(双葉社刊)が発売中。
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