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2010年02月15日

亀田兄弟にも食べさせたい、世界“チャンポン”の味

亀田兄弟にも食べさせたい、世界“チャンポン”の味
 今から20年近く前、ボクが大衆グルメライターを目指すきっかけとなった、文春文庫ビジュアル版に食シリーズというのがあり、いわゆる後に流行語となる「B級グルメ」の文庫本で、その中に一冊に、日本にはというか東京には「5大丼・3大ライス」があるという記事があった。「5大丼・3大ライス」というのが、天丼、カツ丼、親子丼、うな丼、牛丼の5丼とカレーライ、ハヤシライス、チキンライスの3ライスでこの記事を読んだとき、5大丼は一応納得できたけど、3大ライスは今ひとつの納得できなかったのである。

 それはなぜかというと、カレーライスはボクが子供の頃から「ライスカレー」という名で親しまれ食堂やレストランで味わえたし、チキンライスはいわばオムライスの前身的な立場から納得できた。が、しかし、ボクが子供の頃はハヤシライスが食べられるレストランは沖縄には皆無だったからである。ここ数年、カフェでハヤシライスが食べられる店があるらしいと聞いているがボクは食べたことはない。というわけで、ハヤシライスが選ばれた3大ライスに疑問を感じていたのである。

チャンポン そこで、ボクが思った。東京が三大ライスなら、沖縄は4大ライスだと。
 それは何かというと、カレーライス(特に黄色いカレーだよ)、オムライス(沖縄の食堂やレストランではチキンライスよりオムライスが主流だから)、それからタコライス(タコライスについてはいつかこのコーナーで詳細を書くので待っててネ)、で、最後が、やっと今回の主役のチャンポンである。「何!?沖縄の4大ライスにチャンポンだと〜」とか「チャンポンは麺類やないけー」と微妙な関西弁で異論を唱える人もいるかもしれないけど、沖縄で「チャンポン」といえば、誰がなんと言おうとご飯ものというかライスものである。それでは麺類のチャンポンはなんというのかというと、単純に「長崎チャンポン」という。

 それでは沖縄の「チャンポン」とはどんなものなのかというと、前述の通りライスものである。ちなみに、ご飯ものといえばお箸を、ライスものといえばスプーンを使って食べるものと認識してもらいたい。それで「チャンポン」はお箸ではなくスプーンを使うものなので、ライスものである。

 こんな説明では「まったくもってチャンポンとは麺類じゃないがライスものの未知なる食べ物」で終わってしまうので種明かしするね。前振りがずいぶん長かったけれど、ひと口に言えば「チャンポン」とはキャベツやモヤシ、ニンジンや青菜などをお肉(あるいはポーク)やコンビーフハッシュなどと炒めて、だし汁を加えて少し煮て溶き卵を絡めてお皿に盛られたご飯の上にトッピングというか乗せたもので、いわば「野菜炒め煮卵とじのっけライス」ともいえる、見栄えが必ずしもいいとはいえない地味な食べ物だといえる。

みかど で、それが何故「チャンポン」と呼ばれるのか、その生まれはいつなのか諸説いろいろあるけれど説明しよう。今から10年ほど前、ボクは「チャンポン」のルーツを求めてタクシーの運転手や老舗の食堂から「チャンポン」に対する聞き取りを行った。一人で地道に取材する中、有力な手掛かりとなったのが「昭和40年前後の那覇の国道58号沿いにある24時間営業の食堂ではないか」ということであった。かつて、国道58号沿いには24時間の食堂がたくさん立ち並んでいた。今でも40年以上やっている老舗食堂が残っており、そこで、最有力なお店として浮かびあがったのが那覇市松山にある食堂の「みかど」であった。

 「みかど」を取材したときに、お店の代表者が「チャンポンはうちの店から始まった」とあっさりといった。何でもこの店、今から40年以上前、沖縄で最初の24時間営業の食堂をはじめたという。真夜中も食事ができることから、タクシー運転手や夜勤の人に特に好評だったという。ある日、常連のタクシー運転手からもっと早く食べられて栄養のあるメニューはできないかといわれ、店主が即席で考え出したのが数種類の野菜を炒めて卵でとじてご飯の上にのせた「チャンポン」だった。名前も野菜をご飯にまぜて食べることと野菜チャンプルーと混同しないように「チャンポン」と名付けたという。
「チャンポン」は早く食べられて美味しく野菜たっぷりなことからタクシー運転手に大人気で、やがて国道58号沿いにあったほとんどの食堂で「チャンポン」がメニューとして並び、のちに県内の多くの食堂が「チャンポン」というメニューを定番として出すようになった。
チャンポン
 そんなわけで、沖縄で「チャンポン」といえば麺ではなくライスものになったのである。沖縄の料理の中でヘビー級のメニューといえば王道の「ゴーヤーチャンプルー」などのチャンプルー類である。そしてミドル級は間違いなく「沖縄そば」であろう。ウェルター級がソーキ汁でライト級がテビチ汁だとすると、フェザー級はみそ汁であろうか。バンタム級黄色いカレーとすればフライ級はやっぱり「チャンポン」といえるのではないだろうか。

 おぉ、奇しくもフライ級といえばあの、世界チャンピオンの亀田兄弟と同じではないか。偶然の一致(っていうか、無理やりだろ!)とはいえ、ここで世界チャンピオンと「チャンポン」が一緒になるとは。これも何かの縁なので、いつか世界チャンピオンに沖縄の「チャンポン」を食べさせたいと思うボクなのであった。

 あ、そうだ、世界チャンピオンといえば沖縄出身の具志堅用高や浜田剛史、渡嘉敷勝男、平仲明信、上原康恒、友利正という面々がいたけれど、彼らは間違いなく世界チャンピオンになる前に沖縄で「チャンポン」食べていたはずである。

嘉手川 学の『ryuQ100味』バックナンバー:
http://ryuq100.ti-da.net/c73393.html

亀田兄弟にも食べさせたい、世界“チャンポン”の味
筆者プロフィール:嘉手川 学(かでかわまなぶ)
フリーライター、沖縄県那覇市生まれ。沖縄のタウン誌の草分け『月刊おきなわJOHO』の創刊メンバーとして参画。沖縄ネタならなんでもOKで特に食べ物関係に強い。現在も『月刊おきなわJOHO』で食べ物コーナーを15年以上掲載中。
著書、編著、共著に『沖縄大衆食堂』、『笑う沖縄ごはん』、『泡盛『通』飲読本』(各双葉社)など多数ある。共著で『沖縄離島のナ・ン・ダ』(双葉文庫)と『もっと好きになっちゃった沖縄』(双葉社)、『沖縄食堂』(生活情報センター)が発売中。



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