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2007年07月02日

『造型の彼方』清田政信著ひるぎ社/二十七年目の「少年論」


 梅雨も明けたので、与儀にある県立図書館に、今編集している市場に関する本の資料を借りに行く。久々だ。あの恐ろしい夏の、本気の日差しがまぶしい。駐車場横の木陰には行くあてのない風情でゆくっているおじさんが、ひとり、ふたり。与儀の図書館の周りは、いつ行っても、浮き世とかけ離れた雰囲気が漂っている気がするのはなぜだろうか。僕自身、大学卒業したあと、沖縄の若者らしく失業してこの街でどこにも行き場所がなかった頃によくここに来ていたからかもしれないなぁ。ハロー・ワークの出張所を図書館横に設置したらいいかも……とまぁそういうことは慶良間沖にでもおいといて、さっそく一階の沖縄コーナーへ目当ての本を探す。ここにくればだいたいの沖縄関係の本を目に通すことができる。名護市史のいくつか、那覇市史の改訂版などを抜き出す。そのついでに久々なので、沖縄コーナーを一巡りすることにした。そこで、ふと思いついて文学関係の棚へ。……あった。清田政信『造型の彼方』(ひるぎ社1984)。初めて手にする本だが、ぱらぱらめくって確認する。やはりこれだった。探してた随想が収録されていた。

 僕がその名前を知ったのは、高校三年生の時。沖縄タイムスに載っていた随想を読んだのだ。当時なぜかしらものすごく納得してしまって、クラブの後輩なんかに、新聞にとってもいい随想が載っていたから読んだらいいよ、なんて勧めた記憶がある。どういった内容だったのかはあまり思いだせないくせに、清田政信(きよたまさのぶ)という人が書いたものだということだけは覚えていた。

 彼がどんな人かというと……七十年代から八十年代前半、沖縄は、詩人の時代だった、という印象が僕の中にはあって、あんまり読んでたわけではないのだが、書店の沖縄コーナーでも詩集の点数は目立っていた記憶がある。多分、五十年代、六十年代の沖縄の文学潮流の中心である「琉大文学」の関係者が次々と作品集を発表していたからだろうか。その中の一人である清田政信は、あの目取真俊をして〈学生時代に最も強い印象を受けた〉というほどの詩や評論を発表していた詩人である。沖縄の現代詩、評論関係にはからきし弱い僕でも、この人は別格ではないかと思うくらい、その方面では影響力があったようだ。
 しかしそのエッセイを読んだ当時、僕はもちろん彼がどういう人かまったく知らない高校生だった。
あれから27年たった。さてどんな文章だったのか、それが知りたくてその随想のはじめの頁をめくった。

〈少年とは何か?それは自らの出生から出て他者に出会うための永い感受性の苦しみではないか。彼は思考を集中して存在の核心に到達するには言葉の乾いた抽象力に突きあたっていないし他者を明確な像として成立させるためには内面をとらえる意識がまだ薄弱だ。だが彼は明日の方からおそいかかる世界の不安に対して言葉になる以前の心域を集中することによって、言うなれば全存在をかけて立ち向かっている。この時期の少年の生き方をどのようにその後の生涯につなげていくかによって人の〈生〉は深くもなるし、浅くもなる〉 「少年論」

 あの季節の空気がふわっと蘇った気がする。そうか、この文章は、僕に直接語りかけてきたのだと思ったんだな、僕のことを言っているぞと。少年とその孤独についてこういう風に語りかけてくる文章を、沖縄の人が書き、それが沖縄の新聞に載るものだとはまったく思っていなかったのだ。その時のインパクトがなぜかしらずっと僕の心の片隅に刻印されていたのは、例えば次のような言葉だったかもしれない。

〈きみはおぼえているか。「誰も自分を理解してくれない」といってかたくなになっていたことを。だが理解なんかされなくたっていいのだ。そのくるしみを言葉なり、ものにつくってみればいい。それを〈自立〉というのだ。人は誰にも理解されなくたって何かに没入できるし、そのなんでもないことを持続しているうちに、おそらくきみに近い誰か一人ぐらいは関心を示してくれるかもしれない。それを最初の他者というのだ〉

 あれから二十七年。今僕はその〈他者〉を〈読者〉に置き換えているのかもしれない。

 『造型の彼方』は、沖縄の絵画、詩、映画に関する評論と随筆から構成されている。評論に関してはここで僕が語ることはできないのだが、随筆を読んで行くと、彼は長い間、精神安定剤を常用するほどの病いにあったことがわかった。そしてこの本をまとめて以後、新しい著作はない。
(文・新城和博)

プロフィール:新城和博(しんじょうかずひろ)
沖縄県産本編集者。1963年生まれ、那覇出身。編集者として沖縄の出版社ボーダーインクに勤務しつつ、沖縄関係のコラムをもろもろ執筆。著者に「うっちん党宣言」「道ゆらり」(ボーダーインク刊)など。
ボーダーインクHP:http://www.borderink.com/


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この記事へのコメント
はじめまして。今日初めて見てすごく嬉しかったです。それは、まだ父のことを想ってくださる方々がいるということです。ブログを見て涙がとまりませんでした、私は父のような才能はありませんが、一言お礼が言いたかったのでメールしました。これからも読ませてもらいます!頑張って下さい!
Posted by きよた at 2008年03月17日 02:37
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